ショパン・ピアノ協奏曲


ショパン・ピアノ協奏曲1番/マルタ・アルゲリッチ(p)クラウディオ・アバド(指揮)(1968)

怒濤のショパンとでもいうんでしょうか…、とにかく凄い演奏です。まるで何かが乗り移ったかのような圧倒的な演奏。ジェットコースター的にたたみかけるスピード感と非常に繊細な情感との両方の魅力を持つショパンです。ある意味このスタイルでの究極。何度聴いたかわかりません。名盤中の名盤。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/ディヌ・リパッティ(p)オットー・アッカーマン(指揮)(1950)

背筋がピンと張った格調高い演奏。品があります。この曲の名演中の名演。ただ、1950年の録音なもんで、音が悪い。そしてオケが省略ヴァージョン…。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/マルタ・アルゲリッチ(p)Witold Rowicki(指揮)(1965)

1965年のショパンコンクールで優勝した際のアルゲリッチの伝説の演奏。68年のスタジオ録音と甲乙つけがたいほどの名演。ただ、省略オケなのが痛すぎる…。アルゲリッチ自身は自分の演奏の中ではこれがいちばん気に入っているそうです。

ショパン・ピアノ協奏曲2番/アルフレッド・コルトー(p)ジョン・バルビローリ(指揮)(1935)

1935年の録音。フランスの名ピアニスト、コルトーは大のお気に入りで、特にこのショパンの2番は大好き。リズムの揺らし方から強弱のつけ方まで何から何まで独特。この時代に特有の表現法。

ショパン・ピアノ協奏曲2番/イーヴォ・ポゴレリッチ(p)クラウディオ・アバド(指揮)(1983)

わざとらしさとのギリギリの所で成り立っている演奏。例のショパン・コンクール騒動で話題になってすぐの録音です。かなり珍しい部類に属する演奏ではありますが、言わずもがなの名演。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/サンソン・フランソワ(p)ルイ・フレモー(指揮)モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団(1965)

「幻想のピアニスト」と言われているわりには実は意外に無骨な演奏のフランソワ。叙情性というよりも、渇いた印象があります。1番の冒頭、あまりにも遅く、かなり異様なテンポを取ります。とにかくテンポの取り方があまりにも個性的なので好き嫌いが別れるかもしれません。とはいえこれほど異様な1番の第1楽章は他にないので、これだけでも一度は聴く価値あるかも。僕は結構気に入ってます。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/フー・ツォン(p)

なんというか、濃厚。ひとつひとつの音を丁寧に紡ぎ出していく感じで、密度が濃いです。昔からあまり話題にならない盤ですが、超がつくほど凄い名演。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/クリスチャン・ツィマーマン(p、指揮)ポーランド祝祭管

最初聴いたときにはこれこそショパンP協の決定版か、とも思ったけど、だんだんその演劇的で大袈裟な解釈が気になってきしまいました。ツィマーマンの弾き振りなわけですが、オケ部分の強弱緩急つけすぎの異様なテンポ設定もちょっと気になるし、ピアノパートのあまりの演劇性も気になってしまう。また、第1楽章がいくつかのパートに別れてしまっているかのような印象もあります。とはいえ、近年稀に見る名演には違いないわけですが。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/マリア・ジョアン・ピリス(p)エマニュエル・クリヴィヌ(指揮)ヨーロッパ室内管弦楽団(1997)

大変キメの細かい演奏。柔軟性があって柔らかなタッチ。可憐で丁寧な演奏。この曲の元々の演奏はこんな感じのものだったのかもしれないと思わせてくれる。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/原智恵子(p)渡邊暁雄(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団(1962)

1914年生まれの原智恵子は2001年に87歳で亡くなったわけだけど、亡くなった後でこんな録音物が再発見されて再評価されているわけです。多少のミスタッチやばらつきなどもありますが、さほど気になりません。無神経なオケが台無しにしているところが残念ではありますが。

ショパン・ピアノ協奏曲1番・2番/クラウディオ・アラウ(p)インバル(指揮)(1970)

アラウらしいスケールの大きな演奏です。「陽性」のショパン。インバルの指揮もアラウの演奏に合わせてか、ゆったりとしたスケールでピアノにからみついていきます。神経質な所が全く無いので、なにか爽やかな印象すらあります。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/イディル・ビレット(p)ロベルト・スタンコフスキー(指揮)(1990)

タッチの繊細さが素晴らしい。この曲の解釈としてはごく平均的なものですが、オーソドックスであるがゆえにイディル・ビレットの力量がダイレクトに伝わってきます。非常に美しいショパンです。

ショパン・ピアノ協奏曲1番・2番/ウラディミール・アシュケナージ(p)アシュケナージ(指揮/1番/1997)ジンマン(指揮/2番/1965)

本当に待ちに待った1番の録音だったわけですが、97年にようやく録音。がしかし、ちょっと遅すぎたという感があります。タッチが安定していた全盛期に録音していれば・・・。65年の2番は文句なしに充実した録音。この2番の方は僕が中学高校生時代によく聴いてたもので、自分の中では基準のひとつとなってる演奏です。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/エミール・ギレリス(p)キリル・コンドラシン(指揮)(1962)

ベートーベンのソナタを弾くときのような「鋼鉄のタッチ」を期待すると肩透かしを食らう。実に繊細で柔らかなタッチ。個人的にはベートーベン弾きというイメージのあったピアニストなので、ショパンが珍しく思えた。同じベートーベン弾きでもクラウディオ・アラウはショパンが似合ったりするのに、ギレリスとショパンP協ってのはなんだかイメージ的に合わないのは何故だろうか。そんなことよりもこの録音、ライブ録音なのだが、会場に風邪をひいてる人が沢山いたのか咳払いがやたらと沢山入る。それが気になってしょうがない。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/ルービンシュタイン(p)スクロヴァチェフスキー(指揮/1番)オーマンディー(指揮/2番)

この曲のいわばスタンダードともいえる録音。安定感があります。聴いてて安心出来る数少ないアルバムではあります。幸福感に満ちた演奏です。ルービンシュタインの人間味のある演奏にひかれます。こんな演奏出来る人は他にいません。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/スタニスラフ・ブーニン(p)

かなりクセのある演奏ながら、日本では当時相当人気がありました。やはりあの伝説の1985年のショパン・コンクールのテレビの影響でしょう。あのコンクールの模様は本当に面白かった。そしてブーニンのインパクトは圧倒的でした。このアルバム、その後あまり聴かれなくなりましたが、とにかく勢いが凄いです。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/エフゲニー・キーシン(p)ドミトリー・キタエンコ(指揮)

暗さの全く無い、やけに明るい演奏。12歳のキーシン、驚異のアルバムです。やたらと健康的なショパンです。これほどまでに潔いショパンはあまり無いでしょう。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/アダム・ハラシェビッチ(p)ハインリッヒ・ホルライザー(指揮)(1958)

1955年のショパンコンクールで、あのシュケナージやフー・ツォンらをおさえて優勝したハラシェビッチの演奏。音のつぶが揃っていて聴きやすい。いわゆるポーランド流派のピアニスト。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/クン・ウー・パイク(p)アントニー・ヴィット(指揮)(2003)

曲の繊細さを強調した演奏。多少芝居がかっているのはツィマーマン盤を念頭に置いたからか、それとも指揮者がポーランド人だからなのか。ジャケの醜さが気になるところです。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/マウリツィオ・ポリーニ(p)ポール・クレツキ(指揮)(1960)

昔はこのポリーニの演奏をアルゲリッチ(1968年盤)に並ぶ名演として上げた人なんかもいたんですが、今の評価はどうなんでしょうね?例のメカニカルなポリーニ独自のタッチはすでにこの時期に出来上がっています。このメカニカルさで圧倒!全体的には、あっさりと進行していくショパンです。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/イスラエラ・マルガリット(p)ロリン・マゼール(指揮)(1973)

中学~高校生時代によく聴いてたのがこのマリガリットのショパン。だもんで、どの箇所を取っても愛着がある、というか僕にとってのショパンP協1番の基本がこの演奏。これをさんざん聴いて育ってきたから、のちに大学生のときアルゲリッチのショパンP協1番(1968年の録音)を聴いてそれこそ本当に腰を抜かさんばかりに驚きました。この折り目正しいマルガリットの演奏でこの曲を覚えたというのは今考えれば正解だったなあと思います。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/オリ・ムストネン(p)ブロムシュテット(指揮)(1994)

フランソワ盤と並ぶ超個性的なショパンです。所々ノン・レガートで渇いた弾き方をしながらも作品の叙情性を失わない実に不思議な演奏。テンポの自在な取り方もかなり独特です。この曲を通常とは全く違った視点で捉えた名演で、曲自体の美しさにあらためて気づきます。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/アレクシス・ワイゼンベルク(p)スクロヴァチェフスキ(指揮)(1970)

早いときは早く、遅いときは遅く、といったテキパキとした演奏。だからなのか意外にあっさり風味です。変なべたつきが無い分だけ爽やかかもしれません。ピアノタッチもなかなかテキパキ、ハキハキしております。ただ、オケがどうもピアノについて行ってないというか、オケとピアノがバラバラな感じが残る。

ショパン・ピアノ協奏曲1番・2番/エヴァ・クピーク(p)スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(指揮)(2003)

オケの音がでかすぎるのか、ピアノの音が小さすぎるのか、どうもバランスが良く無い。ピアノは慎ましく、おとなし目。すっかりオケの中に埋まっている感じです。が、それが逆に味となってこの曲の良さを引き出しているようにも聴こえてくるから不思議です。ピアニストよりも指揮者が主役であるかのような録音。1番より2番の方が断然良いです。2番の第3楽章のオケはちょっと「?」ですが…。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/ゲンリッヒ・ネイガウス(p)アレクサンドル・ガウク(指揮)(1951)

リヒテルやギレリスを育てたことで知られるネイガウス。あのスタニスラフ・ブーニンはこのネイガウスの孫。というわけでこの演奏、ずいぶんと淡白であっさりとしております。枯淡な味わいというか、どことなく哀愁が漂う演奏で、そこがまたヨシ。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/ホルヘ・ボレット(P)シャルル・デュトワ(指揮)(1989)

ショパンのP協のアルバムの中では僕が最も「売っては買い売っては買い」をくり返してるアルバム。つまり、よほどこれが気に入ってるってことでしょうね。特筆すべきは1番の第1楽章。あまりにも遅いテンポと透明感のある柔らかいタッチ。繊細さという点ではナンバーワンでしょう。デュトワとモントリオール交響楽団のオケはこの曲でもやっぱりあの美しい音色。この独特の音色とボレットの繊細で弱々しくさえ感じるピアノとのコンビネーションは抜群で、文字どおり唯一無比の個性的演奏。それほど有名なアルバムではないかもしれませんが、僕はこれを大傑作と認定したい。ちなみに2番に関してはボレットのタッチも力強くなってきて、リストを弾いているときのようなツブの揃った透明感のある演奏です。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/マレイ・ペライア(p)ズービン・メータ(指揮)(1979)

アルゲ/アバド盤ほどではないにしろ、結構飛ばすペライア。アルゲは飛ばしながらも繊細さと流麗さを失ってませんが、それに比べるとこちらはやや単調。しかしながら、おおらかで情感豊かに歌いあげるショパンです。特に第3楽章が音の粒ひとつひとつが光っていて素晴らしい。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ(CDでは「ステファニスカ」表記)(p)スメターチェク(指揮)(1955)

例のいわくつきの録音です。長年リパッティのものと勘違いされていたステファンスカの演奏。リパッティのものと比べるとぜんぜん違うのになんでこれがリパッティの演奏と思われていたのかがいまいちよく分からない。端正で気品があるという共通点だけで、リパッティの解釈とは随分違うのにねえ…。というわけで、この演奏ですが、長年リパッティの演奏と思われていただけあって、気高く香り高い演奏です。だた、リパッティのような完璧な技術に裏打ちされた高貴な気品よりも、こちらは端正でありながらもほのかに香る静かな叙情性、といった趣きです。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/エマニュエル・アックス(p)チャールズ・マッケラス(指揮)(1997ー98)

ショパンと同時代のピアノ(1851年ロンドン製エラール)を使用し、バックのオケもピリオド楽器。この「エラール」というピアノが、実際にショパンが使っていたピアノ「プレイエル」とどこまで近いのが分かりませんが、とりあえずショパンの時代の「音」を再現してみたという興味深いアルバム。今のピアノに比べると表情があまり無い感じではあるものの、アックスの演奏はひとつひとつの音に対して丁寧で、コクがあって引きこまれます。ルービンシュタインを彷佛させるようなオーソドックスなスタイルです。1番より2番の方がこのピアノとマッチしているような気がします。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/ギャリック・オールソン(p)イエジ・マクシミウク(指揮)

1970年のショパンコンクール覇者オールソンの演奏。ちなみにこのひとつ前の1965年ショパンコンクールの覇者はアルゲリッチで、1960年はポリーニ。また、ひとつ後の1975年はクリスチャン・ツィマーマンです。ポリーニ、アルゲリッチとツィマーマンに挟まれたオールソンですが、何故か彼だけ知名度はいまひとつ…。ちなみに1970年の第2位は内田光子です。さてさてそのオールソンのショパンピアノ協奏曲。とにかくクセが無くてあっさりしています。そこが魅力でもあり欠点でもありといった感じでしょうか。感情過多なものを聴いたあとなんかにはいいかもしれません。

ショパン・ピアノ協奏曲1番/フリードリヒ・グルダ(p)ボールト(指揮)ロンドン・フィルハーモニック(1954)

グルダの奔放な弾き方が実に魅力的。なめらかに流れるような、あまりにも個性的なピアノは、アルゲリッチ盤やフランソワ盤といった稀代の名盤における演奏にも匹敵するものがあります。が…。何故だかオケのパートを相当いじっているのです。多少変える程度ならまだしも、ピアノを殺してしまう程の変更ぶり。これはいけません。これでオケがせめて「普通」であったなら…、と思わずにはいられません。ショパン・ピアノ協奏曲の名盤としてこのディスクが上げられることが全く無いのは、このバックのオケのせいでしょう。グルダのピアノ自体は素晴らしすぎるほど素晴らしいのに…。まあ、珍盤の類といえましょう…。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/クリスティアン・ツィマーマン(p)ジュリーニ(指揮)(1978)

ツィマーマンには1999年録音の必殺盤がありますが、僕はこちらの78年盤の方が好きです。ショパン・コンクール優勝の3年後の録音。端正で瑞々しいピアノです。99年盤に比べると、こちらの方がなめらかに流れます。僕の中では基本の一枚。

ショパン:ピアノ協奏曲第2番/クララ・ハスキル(ピアノ)イーゴリ・マルケヴィッチ指揮、コンセール・ラムルー管弦楽団  (1960年)

「繊細な」なんて売り言葉に騙されてはいけません。繊細さからは程遠いゴツゴツとした力強いショパンです。しかし、それを「味」と捉えてみれば、フランソワのショパンのようにエスプリの効いた風味が出て来る気がしてくるような…。マルケヴィッチのデリカシーのかけらも無い最悪オケに相当邪魔されてはおりますが、ハスキルの詩情豊かなピアノはそんなオケをも超えて自分の音を主張します。 

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/アルゲリッチ(p)デュトワ(cond)モントリオール交響楽団(1998)

60年代アルゲリッチのの鬼気迫るショパンを期待すると肩すかしを食う。カドが取れてすっかり丸くなったアルゲリッチの新境地とでもいうのだろうか。なにやらおおらかさすら感じます。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/アンネローゼ・シュミット(p)クルト・マズア(cond)ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(1982~1984)

良い意味でも悪い意味でもゲヴァントハウス管弦楽団特有のアクの強い音の塊にピアノも取り込まれているような、そんな感じ。ピアノは繊細でありながらも要所要所はピシっと決めています。

ショパン・ピアノ協奏曲1番&2番/ブレハッチ(p) イェジー・セムコフ(cond) アムステルダム・コンセルトヘボウ

2005年のショパンコンクール覇者、ブレハッチのショパンp協。ポーランドの伝統なのか、全体的にスケールの小さいショパンです(1955年のショパンコンクール覇者のポーランド人、ハラシェビッチもそんな感じでした)。音の抑揚もそんなに無く、意外に平坦。個性が無いというより、あえて奇抜な事はやらないという姿勢を感じます。フランソワ等とは正反対。中庸の美とでもいうのでしょうか。1番も2番も端整さが際立ちます。


(文:信田照幸)


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