Guitar その4(一番下が最近記事です)


RABIH ABOU-KHALIL / Nafas (ECM/1988)


Rabih Abou-Khalil (oud) Setrak Sarkissian (goblet drum)��Selim Kusur (nay) Glen Velez (frame drum)

Enjaレーベルから沢山アルバムを出しているウード奏者Rabih Abou-Khalilの唯一のECM盤。ECMでウードといえばアヌアル・ブラヒムなわけだが、こちらも素晴らしいのだ。アヌアル・ブラヒムがアラブとジャズとの融合的なのに比べ、Rabih Abou-Khalilの本作はそのまんまアラブ。で、これがまたイイ。アラブ圏の音楽はなんでこんなにも魅力的なのだろうと思ってしまう名作。Rabih Abou-Khalilはソロ演奏になると早弾きしだす演奏家なんだけど、ここではじっくりと弾いててとても味わい深い感じ。また、ウードだけに焦点を絞ったわけでもなく他の楽器のソロもふんだんに盛り込まれているところがこれまたいいのだ。Enja作品が結構土臭いのに対しこのECM盤は透明感のある音作りで、いかにもマンフレッド・アイヒャー的な音の質感。

DAN ADLER / Back To The Bridge(2010)

Dan Adler(g) Joey DeFrancesco (org) Byron Landham (ds)

これはちょっとストライク。ひさびさに来ましたねこれは。僕はこう見えて新譜も沢山聴くのだが、これは最近の中でもピカイチ。最高。タル・ファーロウがあのまま元気にやってて芸風を現代的に変化していったらひょっとしたらこうなるかもしれない的な、まあそんな感じか。つまり最高のバップ。Dan Adlerはメロディラインの作り方のセンスが抜群。これは明らかに只者ではない。要注目。それに加えてByron Landhamのドラムの圧倒的なスイング感、ついでにJoey DeFrancescoのハモンドの洗練された響き。この臭みの無いハモンドも決め手。オルガントリオというコテコテフォーマットではあるもののソウル臭さやブルース臭さがほとんど無いので、ちょっとラウンジ的オシャレ感すらあったりする。これはDan Adlerのセカンドアルバムだがこういうのを待っていた!今後のジャズ界は明るい!

HOWARD ALDEN / I Remember Django (Arbors Records/2011)

Howard Alden (g) Matt Munisteri (g) Jon Burr(b) Anat Cohen (cl) Warren Vache(cornet)

だいたいジャンゴのトリビュートっていうとどれもいつも同じようなものを同じようなアレンジで同じようにマヌーシュスウィングに仕上がってるので、僕なんぞはそれならジャンゴ聴くわい!って気分になってきて面白くないのだ。が、さすがはハワード・アルデン、そんな単純なことで誤摩化すようなことはしない。きちんといつもどおりの自分のスタイルのパターンを織り交ぜてやってくれてます。コンコードのハウスギタリストとしていろんな交流戦に参戦してるだけに、マヌーシュがテーマであっても軸がぶれない。バップを織り交ぜたスウィングをこれほどオシャレにかっこよく出来る人ってのは実はすごく少ないので貴重です。昔からこのHPでハワード・アルデンのアルバムはしつこく紹介してるけど、要するに好きなギタリストなわけです。

MUNDELL LOWE / Guitar Moods (riverside / 1956)

Mundell Lowe (g) Phil Bodner (oboe, English horn, French horn) Trigger Alpert (b ) Al Klink (fl, b-cl) Ed Shaughnessy (ds)

ジョニー・スミスと少し似たような味わいのマンデル・ロウのギターはスタジオミュージシャンらしい端正なもの。当時のバップの主流であるタル・ファーロウやケッセルなどのような激しさや即興のスリルなどは無く、イージーリスニング的というかラウンジ的というか、雰囲気重視の落ち着いたスタイル。ひとつひとつの弦の響きが綺麗。ギターという楽器は弦が6本あるんだよなあ、なんて当たり前のことをふと感じる程に、一本一本の弦の音色に重みがある。音楽的にはウエストコースト系だが、録音はニューヨーク。

Howard Alden & Bucky Pizzarelli /��In A Mellow Tone (concord /2003)

Howard Alden (g) Bucky Pizzarelli (g)

カール・E・ジェファーソンが生きてたら絶対にこのアルバムを制作してただろうな、というアルバム。いかにもコンコード的だ。7弦ギターの名手バッキー・ピザレリと、これまた7弦ギターの現代の名手ハワード・アルデンのデュオ。そもそもコンコードのはじまりはカール・E・ジェファーソンお気に入りのハーブ・エリスと当時破竹の勢いだったジョー・パスのデュオ(リズムセクションつきだったが)。以後、保守系のギターといえばコンコードといえるほどにいろんなギターものが出て来たわけで、僕なんぞはコンコードのギターものというだけで全部聴いてみたくなるのです。で、このアルバム。かなりイイ。フレディ・グリーンにも並び称されるバッキー・ピザレリのスイング感覚が凄いのか、あるいはハワード・アルデンのセンスが凄いのか、とにかくギター・デュオにしてはリズムがくっきりと浮き出てて心地よく、かなり最高。バッキー・ピザレリはもっと早くコンコードに来て欲しかった。

ADAM RAFFERTY / I Remember Michael (crescent ridge / 2011)

Adam Rafferty (g)

これは面白い。元々はメインストリーム系のジャズギターのアルバムを出してたAdam Raffertyなんだけど、2007年の「Gratitude」でポピュラーミュージックをアコギ一本で弾きはじめてから何かが吹っ切れたようで(笑)、2008年の「Chameleon」でも同じようなギターアルバムを出し、ついに開き直ったか今年の新作はマイケル・ジャクソンの曲をアコギ一本でやってみるという暴挙。で、これがやたらと面白い。何故か自由が丘のカフェかなんかで流れてそうなオサレ感もあったりする。もはやjazzとは関係ないシロモノかもしれないけど、なんかjazz時代のしっぽがちらほら見え隠れするのがちょっと嬉しい。ShanachieレーベルやYazooレーベルなんかから出そうなアルバム。ちなみにこの人の演奏はyoutubeにも沢山あります。 

WES MONTGOMERY / Guitar On The Go (riverside/1959-1963)

Wes Montgomery(g) Mel Rhyne(org) George Brown(ds) Paul Parker(ds 5のみ)Jimmy Cobb(ds 7のみ)

リバーサイドのウエスのオルガントリオは全部好きなのだ。とにかくメル・ラインのハモンドが素晴らしすぎる。このアルバム、会社の都合でいくつかのセンションの寄せ集め的なものになってしまってるが、全部オルガントリオでまとめてくれてるのがうれしい。ウエスのオルガントリオでのメル・ラインのハモンドは僕がジャズの泥沼に足を踏み入れるきっかけのひとつでもあったので思い入れが強い。

CHRISTIAN ESCOUDE / Au Bois De Mon Coeur (2011)

Christian Escoude(g) Fiona Monbet(vln) Jean-Baptiste Laya(g) Pierre Boussaguet(b) Anne Paceo(ds) Andre Villeger(cl) Bireli Lagrene(g) Swan Berger(g)

ほどよい加減のマヌーシュ。叙情的なメロディを強調するマヌーシュ・スウィングはすぐにお腹いっぱいになってしまうのでちょっと敬遠してしまうのだが、このアルバムの2曲目とかはなんだかクールで凄くイイ。なんだこの爽やかさは。クリスチャン・エスクーデのギターの音は少し線が細いので元々爽やかな感じがあるけど、この曲は特に爽やかだな。

STANLEY JORDAN / Friends (MACK AVENUE/2011)

Stanley Jordan(g, p)��Kenwood Dennard(ds, key) Kenny Garrett(ss)��Charlie Hunter(g) Ronnie Laws(ss) Russell Malone(g) Bucky Pizzarelli(g) Mike Stern(g) Christian McBride(b) Charnett Moffett(b) Nicholas Payton(tp)�� Regina Carter(vln)

ほとんど誰も興味無いであろうこのアルバム。が、実はこれが凄かった。80年代に新生ブルーノートから超絶技巧で鳴り物入りデビューしたもののただそれだけだったのでジャズファンから総スカン食らった、あのスタンリー・ジョーダンとはまるで違う。こういう変わり方なら大歓迎だ。「俺が俺が」的に前に出ることはなく、他のメンバーといい感じで溶け合うような、やや控え目なスタイル。それでいてしっかりと格好いいフレーズを要所要所でキメる。いっそのこと名前も変えた方がイメージ良かったかもしれない、なんてことを思うほど。豪華共演者もそれぞれ素晴らしく、とにかく文句無し。ひとにスタンリー・ジョーダンを勧めるのはちょっとカッコ悪いが、それでも良いものは良いのだ。

PHILIP CATHERINE / Plays Cole Porter (challenge/2011)

Philip Catherine(g) Karel Boehlee(p) Philippe Aerts(b) Martijn Vink(ds)

バックのメンバーがいまいち謎ですが、フィリップ・カテリーンはとても滑らかにギターを歌わせてるといった感じ。曲が曲だからかもしれないけど、イージーリスニング的な心地よさ。一歩間違えると澤野工房とか(笑)。まあ、それでもいいんだけど。フィリップ・カテリーンのギターはジョージ・バーンズのような音揺れを使いつつの、シングルトーン中心の実にシンプルな音。バックのリズムセクションが実に薄いので、比較的線の細いフィリップ・カテリーンの音も少し太く聴こえるような・・・。 

MIKE MORENO / First In Mind (criss cross/2011)

Mike Moreno (g) Aaron Parks (p, fender rhodes) Matt Brewer (b) Kendrick Scott (ds)

ジョージ・ヴァン・エプスの持つ通好みの地味さ加減とメセニーのコンテンポラリーさ加減を足したようなギター。バックの方がむしろ目立つような感じさえあったりする。というかこの重量級ドラムはなかなかイイ。蚊の鳴くようなギターをドラムが煽って、なんだかギターがよく聴こえないみたいな妙な感じ(笑)。でもよく聴けばギターは地味に分厚いコードを連発しながら要所要所で決めてくる。正直criss crossの音作りは昔から少し謎なんだが、これはこれで面白いのかも。

CHUCK LOEB / Plain N' Simple (Tweety Records/2011)

Chuck Loeb(g) Harvey Mason(ds) Pat Bianchi(org) Eric Marienthal(sax) Nathan Eklund(tp, tb) Till Bronner(tp) Carmen Cuesta(vo) Lizzy Loeb(vo) Will Lee(b) Mauricio Zoratelli(per) David Charles(per)

ウエスのオルガントリオを少し意識したような曲もあったりして、なかなかいい感じ。というか、なんでチャック・ローブがモダンジャズに乗り込んできたのかと(笑)。どうしてもフュージョンの影がつきまとうわけだが、この直球モダンジャズのアルバムでも所々フュージョンの匂いが。ところでドラムのHarvey Mason、Fourplayでドラム叩いてるわけだが、そのFourplayにチャック・ローブも昨年から加入している。リトナー~カールトンと来てチャック・ローブとはちょっと思いつかなかったけど(むしろボブ・ジェームスとの関係からアール・クルーあたりが来るかと思ってたが)、意外に何の違和感もなくピッタリ合っていたのが面白い。で、このアルバム、ホーンが入ったりヴォーカルが入ったりと盛りだくさん。でも僕はトリオ編成のものにより魅力を感じる。

TAL FARLOW / Second Set (Xanadu/1956)

Tal Farlow (g) Eddie Costa (p) Vinnie Burke (b)

タル・ファーロウの異質性がよく現れたアルバム。ケッセルやバレルとも全然違う。即興の「今現在創り上げてる感」というか、リアルな現場感が凄い。Xanaduレーベルには「Fuerst Set(ファースト・セット)」という同年のアルバムもあるけど、こちらの「Second Set」の方が断然イイ。おなじみのEddie CostaとVinnie Burkeを従え、ぶっとい音のシングルトーンでガンガン攻めまくる。バップフレーズが所々雑に聴こえるところなんかはちょっとバド・パウエル的か。ちなみにこの1956年は「The Swinging Guitar Of Tal Farlow 」や「Tal 」も録音された年。

KENNY BURRELL / Tenderly (Highnote/2011)

Kenny Burrell(g)

ケニー・バレルの全編ギターソロでのライブ。ウェストコーストでの録音。1曲歌も歌ってます。録音のせいなのか、あるいは使う弦のせいなのか、ギターの音色が昔より細くなっている気が。それでもフレーズはやっぱりあのバレル。しぶい。ひとつひとつの曲が短くコンパクトなのでどの曲もあっという間なんだけど、一切無駄が無い感じで潔い。

HOWARD ALDEN, DAN BARRETT/ Swing Street (concord/1986)

Howard Alden (g) Dan Barrett (tb) Chuck Wilson (as, cl) Frank Tate (b) Jackie Williams (d)

モダン・スウィングの名作。ハワード・アルデンのアルバムの中でも特にノリのいい作品。コンコードはこういうのがあるからやめられない。スウィング感が凄い。そしてなんと言っても音の響きが最高。アレンジがいいのだろうな、これは。音が風景を連想させるところもまたヨシ。

George Benson / San Francisco 1972 (1972)

George Benson(g) Mickey Tucker(p) George Duvivier(b) Al Harewood(ds)

ジョージ・ベンソンにはいろんな顔がある。まず、初期のジャック・マクダフのところにいた頃のコテコテベンソン。その数年後、モッズが好みそうなキャッチーで短いジャズをやってたColumbia時代のおしゃれなベンソン。そしてその後のA&M時代はポスト・ウェス・ベンソン。その後はクリード・テイラーにまる乗りしたCTIベンソン。その後は例のブリージンからのメロウベンソン。その後はギブ・ミー・ザ・ナイトなどのブラコン・ベンソン。90年代後半あたりからのGRPでのスムースジャズ・ベンソン。そして最近のクルーナー・ベンソン・・・。と、とにかく何でもこなし、しかもそのどれもがすべて一流なんだから凄い。他にもビッグバンドでのベンソンやディジーなどと競演したときの超絶スキャット・ベンソン、弟子のアール・クルーと競演した爽やかベンソン、サントラ「Muhammad Ali in 'The Greatest'」における猪木ボンバイエ・ベンソン、などなど、とにかくいろいろあるけど、このライブアルバムは意外に珍しいモダンジャズでの超絶ベンソンとでも言ったらいいんだろうか。とにかく凄い。バックの凄まじさに煽られたのか何なのかよく分からないけど、72年という熱い時代のモダンジャズのメインストリームをそのまま体現するかのような熱さ。ベンソンは何でも出来ちゃうのだ。何せあのマイルス・デイビスの初エレクトリック作品「Miles In The Sky」に抜擢されて余裕でかっこよく決めちゃうくらいだし。たぶんこのアルバムのような超絶ライブはずいぶん沢山あるんだろう。フュージョン~クロスオーバー的なイメージが大きすぎるからか、あまり話題にはならないけど、これからどんどんこの手のモダンジャズ系ライブ音源が発掘されていって欲しい。

Peter Bernstein & Joachim Schoenecker / Dialogues (Parashoot/2009)

Peter Bernstein(g) Joachim Schoenecker(g)

ギターデュオ。昔からこの手のギターデュオは好きでいろいろ聴いてきてるわけだがこれもまた素晴らしいアルバムのうちのひとつ。Peter Bernsteinはcriss crossの印象が強いけど、これはcriss crossというよりも昔のconcordレーベルにありそうな内容。concord路線よりはややモダンか。ジム・ホールの一歩手前あたりでとどまるようなこの保守性がなんとも心地良い。このセンスはかなり好き。

Howard Alden & Ken Peplowski's Pow-Wow (Arbors Records /2008)

Howard Alden(g) Ken Peplowski(ts, cl)

ハワード・アルデンのバックのつけ方が滅茶苦茶かっこいい。コンコード時代にもハワード・アルデン&ケン・ペプロウスキー名義でアルバムを出してるけどあれはリズムセクションがついてたので、純粋にこの二人のデュオというのはこれが初ではないかな。これはハワード・アルデンが2004年にコンコードを離れてから3作目くらいのアルバム。やっぱり内容はコンコードそのもの(笑)。ゆっくりと落ち着いて聴けるアルバム。かなり最高。

Frank Vignola / Off Broadway (2000 / Nagel-Heyer)

Frank Vignola (g) Frank Wess (ts, fl) Randy Sandke (tp) Roland Hanna (p) John Goldsby (b) Joe Ascione (ds)

コンコードでお馴染みのフランク・ビニョーラのこれまたコンコードっぽいモダン・スウィング(というかほとんどモダン)なアルバム。でもコンコードではなくてドイツのレーベルから。3曲目のフランク・ウェスのフルートがいい味出してます。フランク・ビニョーラはマヌーシュ系なのにモダンスウィングの方が自然な感じがあります。

Bruce Forman / Coast To Coast (candid/1978)

Bruce Forman (g) Dick Hindman (p) Peter Barshay (b) Scott Morris (ds) 他

いかにもカール・E・ジェファーソンが好みそうな保守的でウエストコーストな演奏。80年代にはコンコードからアルバムを出してるブルース・フォアマンの、これはファーストアルバム。キャンディドから。ケッセルのように和音を多様するわけではなく単音中心。スティットの平坦なバップフレーズをギターに置き換えたような感じか。バックのトリオは結構激しく煽ったりするので、そのへんはいかにも70年代的。ところでキャンディド→ミューズ→コンコードとレーベルを移っていったブルース・ファオマンはその後Cow Bopというウェスタン・スウィング(カウボーイ・ジャズとも言われる)のグループを作り、すっかりカントリーな人になってる模様(Cow Bopはかなり最高です)。コンコードのギターのベクトルはカントリーの方向に向いていると昔からずっと思っていたのでこれには深く納得。

Barry Galbraith / Guitar and the Wind (decca/1958)

Barry Galbraith (g) Milt Hinton (b) Osie Johnson (ds) Urbie Green, Chauncey Welsch, Frank Rehak(tb) Bobby Jaspar (flute, ts) Eddie Costa (p, vib) Milt Hinton (b) Osie Johnson (ds) etc.

名前は誰でも知ってるけどリーダー作となるとなかなか思い出せない、そんな存在のバリー・ガルブレイス。とにかくあちこちで名前は見かけるしいいプレイをするのはよく分かってるのだがリーダー作が思い出せないというか�。というわけでこれが唯一のリーダー作。これだけの実力者が何故1枚しかリーダー作が無いのかといえばセッションであまりにも忙しかったからだとかいう話もある。究極のスタジオ・ミュージシャンというべきか。バリー・ガルブレイスはどんなスタイルでも弾ける位に器用な人で、このアルバムからもそのへんはよく分かる。また、バックにつくホーン郡がどこかウェストコースト風にまとまりのあるアレンジとなっている(とはいえこれはNY録音)。イージーリスニング・ジャズっぽさとシリアスさの入り混ざった心地良いアルバム。

John Pizzarelli / Midnight McCartney (2015/concord)

John Pizzarelli(g, vo) Michael McDonald(vo) Larry Goldings(p) Bucky Pizzarelli(g)Harry Allen(ts) Andy Fusco(as) Tony Kadleck(tp) John Mosca(tb) Martin Pizzarelli(b) Pamela Sklar(fl) Kevin Kanner(ds) Don Sebesky(Orchestration) etc.

コンコードからのジョン・ピザレリのアルバム。全曲ポール・マッカートニーの曲。相変わらず小気味いいジャイブ調がかっこいい。ボッサ調のものもかなりいい。ドン・セベスキーが絡んでいるせいか、オケの入る曲はどれも雰囲気が素晴らしい。ギターソロになるとモダンスウィング調だったりして(バッキー・ピザレリ!)、かつてのコンコードを彷彿とさせる。ところで、ピアノはラリー・ゴールディングスなのだが、まさかラリー・ゴールディングスがこういう形で残っているというのがなんだか感慨深い。昔ラリー・ゴールディングスがJB'sの一員としてメイシオらと来日したのを渋谷で観ているが、当時はこんな大物になるとは思いもしなかったなあ・・・。ジム・ホールのグループに在籍してた頃もなんだか地味だったし。で、このアルバム。個人的には「カミング・アップ」をやってるのが嬉しい。この「カミング・アップ」は小6か中1のころにとにかく大好きで、カセットテープで死ぬほどよく聴いていたのだ。コンコード・レーベルはオーナーでありプロデューサーだったカール・E・ジェファーソンが亡くなってからすっかり別物のようになってしまったレーベルだけど、こんなアルバムが出て来るならこれもまたいいかもと思い始めました。ラスト、クリスマス・ソングで締めるところもとてもイイ。 

Grant Geissman / Good Stuff (1978/concord)

Grant Geissman(g) Tom Ranier(p,fender rhodes) Gordon Goodwin(Woodwinds) Bob Magnussen(b) Steve Shaeffer(ds)

チャック・マンジョーネ・グループでおなじみのグラント・ガイスマンのファーストで、コンコードから。チャック・マンジョーネ・グループではまず見られないような早弾きなんかもあったりして、結構意外な一面も。早弾きは当時のフュージョン・シーンの流行なんだろうけど、のちのグラント・ガイスマンのスムースぶりを見ると、これはちょっと貴重かもしれない。 

Herb Ellis / Ellis in Wonderland(Norgran/1955-56)

Herb Ellis(g) Harry "Sweets" Edison(tp) Jimmy Giuffre(ts, bs, cl) Oscar Peterson (p) Ray Brown(b) Alvin Stoller(ds) Charlie Mariano(as)

ケニー・バレルとハーブ・エリスはどちらもブルージーと称されるが、これが全く正反対のブルージーさで、バレルの方はハードボイルドなブルージー、エリスはヒルビリーなブルージー。東と西という言い方もある。あるいはモダンとモダンスウィングという言い方もある。エリスの場合はいつもどこか陽気でとぼけたような味わいがあり、そこがシリアスなバレルとの決定的な違い。シリアスなものを好む日本人にはあまり受けないかもしれないが、僕はこの陽気さが好きだ。このアルバムは1955年から1956年にかけての録音で、ボスのオスカー・ピーターソンも入ってはいるもののエリスのリーダー作ということでかなり控え目。ハリー・スウィーツ・エディスンやジミー・ジュフリーがエリス特有のフレーズをなぞるかのように、いい雰囲気で演奏しています。

Howard Roberts / The Real Howard Roberts (concord/1977)

Howard Robarts(g) Ross Tompkins(p) Ray Brown(b) Jimmie Smith(ds)

コンコード・レーベルというのは、イージーリスニングとジャズのボーダーにいたようなアーチストを強引にジャズ・サイドに持って来るみたいなところがあって、たとえばこのハワード・ロバーツなんかもそのうちのひとり。かつてはウエストコースト・ジャズの典型のようなムード中心ともいえるアルバムを出していたけど(普段はスタジオ・ミュージシャンだったようだ)、このコンコード作品では演奏そのものをじっくり聴かせる。1曲目のハービーのDolphin Danceは意表をついた感じでとてもいいし、3曲目のマイケル・フランクスの曲もいい(「アントニオの歌」ではなくこちらを選ぶところがなんかいいですね)。ハワード・ロバーツのギターはウエストコーストの典型で、ジョージ・バーンズのようにカントリー・ライクなカラリとした明るさがあって、いかにもカール・E・ジェファーソンが好みそうな感じ。とはいえたぶんこれはハワード・ロバーツの唯一のコンコード作品。ちなみにコンコードの当時のハウス・リズムセクションともいえるバックもまた素晴らしい。 

Kenny Burrell / Blue Lights Volume 2 (bluenote/1958)

Kenny Burrell(g) Louis Smith(tp) Tina Brooks(ts) Junior Cook(ts) Duke Jordan(p) Bobby Timmons(p) Sam Jones(b) Art Blakey(ds)

このBlue Lightsにはオリジナルの曲順と後発の曲順の2種類あって、僕の好きなのはオリジナルの曲順のもの。後に行くほどどんどん盛り上がっていく構成がカッコイイのだ。ちなみに曲順は
A1 Rock Salt
A2 The Man I Love
B1 Chuckin'
B2 Phinupi
となっている。後発のものはオリジナルのVolume1と2の曲順がごちゃごちゃに振り分けられてます(演奏順なんだけど)。というわけでこのアルバム。バレルのギターを堪能するというよりも、リラックスしたジャムセッションを楽しむような感じ(バレルのギターを堪能するならBNでいうと「introducing」や「midnight blue」あたりがいい)。2曲目のサム・ジョーンズのベースがなんだか凄い。サム・ジョーンズはペデルセンとのsteeple chase盤「Double bass」(1976年)でもソロで凄いことやってます。ところでドラムがブレイキーということで、やはりあの独特のサクサク進むようなスウィング感なのだが、このおかげで長尺の曲もダレることなく聴けるみたいな感じ。ティナ・ブルックスも好演。翌年(1959年)のアルバム「On View at the Five Spot Cafe」にもブレイキーとティナ・ブルックスがいましたね。

Ferenc Snetberger / In Concert (ECM/2016)

Ferenc Snetberger (g)

ハンガリーのギタリストのアコギ・ソロのライブ。 ECMのBill Connors「Theme To The Gaurdian」(1974)やRalph Townerのソロのような、あるいはconcordのCarlos Barbosa-Lima「Chants for the Chief」(1992)や「Music of the Americas」(1991)のような、はたまたNAXOSのギターシリーズのような、そんな感じで静かな音風景。国籍不明かつジャンルも不明な感じだけど最後のカバーで、あ、ジャズだ、ってなります。


Joe Pass with Herb Ellis / Joe's Blues (Laserlight/1968)

Joe Pass(g) Herb Ellis(g) Monty Budwig(b) Colin Bailey(ds)

コンコード・レーベルの始まりはジョー・パス&ハーブ・エリスの「Seven, Come Eleven」と「Jazz/Concord」(どちらも1973年)だけど、それより5年前に録音されたのがこの音源。コンコード盤と遜色ないというか、かなりイイです。いかにもウェストコーストなテイストで、ハーブ・エリスはやっぱり例のごとくカントリー~ヒルビリーな感じ。この時期のジョー・パスはイージリスニングっぽい妙なものしか無いだけに、この発掘音源の存在感は大きい。

Josemi Carmona & Javier Colina / De cerca (UNIVERSAL/2016)

Josemi Carmona(g),Javier Colina(b), Bandolero(per) Jorge Pardo(fl) La Negra(vo)

フラメンコ・ベースのギター・トリオ。スパニッシュ色も強いが、案外国籍不明なテイク(とりおり南米っぽい)も多かったりする。ベースのハビエル・コリーナがとにかく凄い。よく歌うベース。スタンダードの「You And The Night And The Music」はあっという間に終わるけどベースも主役級だったりする。というか全般的にベースもギターと同じ比重。5曲目にはフルートが、7曲目にはボーカルが入る。

Grant Green / Remembering (bluenote/1961)

Grant Green(g) Wilbur Ware(b) Al Harewood(ds)

自分のソロは徹底的に単音でしか弾かないグラント・グリーンの性質がよく出てるアルバム。まるでサックスやトランペットのようにギターを捉えていたかのように単音にこだわります。ベースのソロ時とエンディングに少しだけコードを弾く程度。あとはすべて単音。おまけにギターの音が同じトリオ作品「GrantStreet」などに比べると何故か細い。なもんで地味。そのせいでもなかろうが、これは1980年に発掘されるまでブルーノートでお蔵入りとなっていたもの。とはいえ細い音で聴くグラントグリーンもまたいいもので、独特の脂ぎったコテコテ感が抜けて、いい感じに聴き易くなってます。また、例の同一フレーズをひたすら繰り返すというクドさもここではほとんど見られず、なかなかモダンな仕上がりとなってます。

The Pizzarelli Boys / Sunday At Pete's (Challenge Records/2007)

John Pizzarelli(g) Bucky Pizzarelli(g) Martin Pizzarelli(b) Tony Tedesco(ds)

ジョン・ピザレリがリードギターで、父親のバッキー・ピザレリがリズムギターを担当。バッキー・ピザレリのカントリー趣味がよく出ているアルバム。ハーブ・エリスやジョージ・バーンズらもこのようなカントリー・ライクなアルバムを作るが、こちらもかなり本格的。カントリーとはいえ、そんなにガチのウエスタン・スウィングというわけでもなく、やっぱりジャズになっている。ジョン・ピザレルがときおり見せるカントリー風のチョーキングに山や森の香りがするものの、端正なギターが都市に戻してくれるような、そんな感じ。The Great Guitarsなんかも思い出すし、僕の好きなパターン。

The Howard Alden Trio / Jazz Guitar (concord/1989)

Howard Alden(g) Lynn Seaton(b) Mel Lewis(ds) Warren Vache(tp) Ken Peplowski(ts, cl)

1989年のNY録音。1989年のジャズ界ってばNYでは新伝承派の活躍に沸き、スティーヴ・コールマンらのブルックリン派が登場し、ジョン・ルーリーらのラウンジリザーズ軍団がアバンギャルド界で話題となり、新生ブルーノートからは新人コンボのOTBが出て来て・・・、といった具合に大騒ぎだったのに、ハワード・アルデンってばこんなにも呑気なアルバムを出してるんだから逆に凄い。当時のコンコードはまだカール・E・ジェファーソンが生きてて、もちろん本作のプロデュースもカール・E・ジェファーソンなのだが、スコット・ハミルトンなどを中心にコンコードのモダン・スウィングは盛り上がっていたのだ。ハワード・アルデンはこのあと快進撃を続け、コンコードの代表的ギタリストとなっていく。70年代コンコードではハーブ・エリスが本作と似た様な編成でアルバムを沢山出しているが、ハワード・アルデンの場合はそれらの作品群のような熱気はなく、極めてクール。そこのところが1989年という時代のせいなのかハワード・アルデンの性質に由るものなのかよく分からないけど、とりあえずそのクールなところがかっこいいです。 

JOHNNY SMITH , GEORGE VAN EPS / Legends:Solo Guitar Performances (concoed/1994)

JOHNNY SMITH(g) GEORGE VAN EPS(g)

前半12曲がジョニー・スミスの1976年の演奏、後半がジョージ・ヴァン・エプスの1994年の演奏。それぞれギター・ソロ。ピックで弾くジョニー・スミスがクラシック的なのに対し、指で弾くジョージ・ヴァン・エプスはリズムが跳ねててスウィンギーなのが面白い。枯淡の境地ともいえるジョージ・ヴァン・エプスの落ち着いたスウィング感が素晴らしい。いかにもカール・E・ジェファーソンが好みそうな音だ。

Brennen Ernst / Blue Skies (CD Baby/2016)

Brennen Ernst(g) Ralph Gordon(b) Anders Eliasson(ds) Taylor Baker(mandolin) Casey Driscoll(fiddle) Danny Knicely(g, mandolin) Tom Mindte(mandolin, vo)

マヌーシュ・スウィング系のアルバムは次から次へといいアルバムが出てきて名前が全く覚えられない。マヌーシュの強みはどれも一定レベルをクリアしてて質が高いことだけど、逆にマヌーシュの弱みはどれもほぼ同じということ。究極のお手本(ジャンゴ)があるからそれも仕方ないとしても、この枠からズレてしまうとなんか違うなあってことになってしまうわけで、難しいもんです。で、このアルバム。ズレている。そしてそこがイイ。マヌーシュ・スウィングからウエスタン・スウィング(カントリー)へとズレているのが本当に素晴らしい。Brennen Ernstという人は全く知らないけど(カントリー系のミュージシャンか?)、とにかくスウィング感が気持ち良い。

Bucky Pizzarelli and Bud Freeman / Bucky & Bud (Flying Dutchman/1976)

Bucky Pizzarelli(g) Bud Freeman(ts) Hank Jones(p) Bob Haggart(b) Ronnie Traxler (ds)

70年代のモダンスウィングはコンコードの諸作をはじめとして魅力のあるものが多い。コンコードではないけど、バッキー・ピザレリのアルバムもまた素晴らしい。そしてこの中にモダン派のハンク・ジョーンズが混ざってるのもまた何だか面白い。70年代ジャズ界の派手なギターブームからは蚊帳の外のような感のあるバッキー・ピザレリだけど、地道に高レベルの作品を出し続けていたのだ。本作はクインテットとデュオの2本立て。デュオのときのピザレリのスウィング感がまた素晴らしい。

Grant Green / I Want to Hold Your Hand (blue note / 1965)

Grant Green(g) Hank Mobley (ts) Larry Young(org) Elvin Jones(ds)

グラント・グリーンのアルバムの中でも「アイドル・モーメンツ」などとともに比較的人気の高いアルバムなんじゃないだろうか。グラント・グリーンのモダンジャズ期はここまでで、この後はファンク、ブーガルー、R&Bといったコテコテ方面、さらにはフュージョンまで飛んで行ってしまう。というわけでこのアルバム。ビートルズのポップスをボサノバでカバーという多少ヌルい演奏から始まるもアルバム全体では全くヌルい印象が無いのはエルヴィン・ジョーンズとラリー・ヤングのリズムセクションのおかげ。特にラリー・ヤングの演奏は聴きどころ満載で、ラリー・ヤングのアルバムとカウントしてもいいくらい。2曲目「スピーク・ロウ」は最初からいきなりコルトレーン・カルテットばりのエルヴィン調で始まり、ハンク・モブレーもつられて怪演。グリーンののほほんとしたギターもどこか凛々しく聴こえます。

Anouar Brahem / Blue Maqams (ECM/2017)

Anouar Brahem(Oud) Dave Holland(b) Jack DeJohnette(ds) Django Bates(p)

アヌアル・ブラヒムの新作。これまでのアヌアル・ブラヒムの作品からするとだいぶホランド~ディジョネット寄りというか、モダンジャズ寄りになってきている印象。エスニック色は薄まった。ジャンゴ・ベイツのせいかもしれない。アヌアル・ブラヒムのウードの音色は相変わらず冷んやりとした感触の響きで、音そのものだけで魅力がある。いわゆるECMの音の範囲から少しも出ていないので、たぶんECMファンには評判がいいだろうが、これまでずっとアヌアル・ブラヒムの鮮烈なアルバムを追いかけてきた者からすると若干不満が残る。とはいえ、ホランド~ディジョネットのコンビネーションを中心に聴くとやっぱり凄いなあと思ってしまうわけで、要するにこのアルバムはデイブ・ホランドとジャック・ディジョネットを聴くものなのだ、と勝手に納得する。ラスト曲の冷たいグルーヴ感はホランド~ディジョネットならでは。 

John Scofield / EnRoute (verve/2003)

John Scofield (g) Steve Swallow(b) Bill Stewart(ds)
ジョンスコの音とフレーズは、聴いてすぐにジョンスコだと分かる。割れたような音と、例のうねうねしながら外にはずれていくようなフレーズを聴くのは爽快だ。こういうものはシンプルなバックだけで存分に聴きたい。というわけでこのアルバムはそんな欲望を満たしてくれるライブ盤。キビキビとしたドラムも気持ちいい。

Rene Thomas / Rene Thomas et son Quintette (Vogue/1954)

Rene Thomas(g) Jean-Marie Ingrand(b) Jean-Louis Viale(ds) Henri Renaud(p) Buzz Gardner(tp)
ルネ・トーマのギターの音色がとてもいい。フランス録音で、ピアノにアンリ・ルノーが入っている。雑なトランペットが気になるが、このギターの美しい音色だけでじゅうぶん。同時期のタル・ファーロウやジミー・レイニーなどと共通する音。スタイルはジミー・レイニーによく似ているものの、タッチがジミー・レイニーよりも緩い(滑らかと言ったほうがいいか)。サル・サルヴァドールなんかにも似てるかなあ。とにかく誰かに似ているという感じがあるぶんだけ個性面では弱いけどこの時代のヨーロッパにおける名手には違いない。

Laurindo Almeida / The Concord Jazz Heritage Series (concord)

Laurindo Almeida(g) etc.
ローリンド・アルメイダは晩年の80年から92年までコンコードからアルバムを出していたが、これはそのコンコード時代の総決算的コンピ盤。ジャズとブラジル音楽とクラシックの間を行き来していたアルメイダだけど基本的にはどれもアルメイダ節とでもいうべきタッチがあって筋が通っている。またプロデューサーのカール・E・ジェファーソンのセンスも光る。カール・E・ジェファーソンがコンコードでローリンド・アルメイダ、チャーリー・バード、カルロス・バルボサ=リマ、ジェフ・リンスキー等のブラジルのギタリストをまとめて取り上げた貢献は大きい。ちなみに近年はカール・E・ジェファーソン時代のコンコード・レーベルのギターものの評価が上がり、中古盤が軒並み高騰してる模様。


(文:信田照幸)


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