BUD POWELL/バド・パウエル

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BUD POWELL/STRICTLY POWELL (RCA/1956)

バド・パウエル(p)ジョージ・デュビビエ(b)アート・テイラー(ds)
だいたいこのへんからパウエルのピアノが重々しくなる。そしてそこが素晴らしい。タッチのヨレ具合がどこかモンクっぽくもある。

バド・パウエルの演奏はピアノのミスタッチ音が多いが、それらのミスタッチはミスタッチに聞こえず、それがそのままパウエルの即興として肯定される。はずした音が演奏の中でとても魅力的な音として聞こえるのだ。ミスタッチがミスタッチとして聞こえたらそれはジャズではない。

というわけで、RCAの2枚は格別の味わいがあって何度でも聴けます。

BUD POWELL / BUD! (blue note)

バド・パウエル(p)サム・ジョーンズ(b)フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)カーティス・フラー(tb)
A面がトリオで、B面がそこにカーティス・フラーが加わったカルテット演奏。出だしの曲のゆったりとしたはじまり方、そして2曲目の「ブルー・パール」、B面のフラーの味のある演奏。僕にはかなりツボ。ブルーノートの録音のためか、ピアノの音が重く聞こえてきます。50年代なかばのパウエルのタッチはもともと重いのでBNとも相性がいい。「端正」とはまるで正反対の荒いピアノの快感はパウエルならでは。

BUD POWELL / The Scene Changes (blue note / 1958)

バド・パウエル(p)ポール・チェンバース(b)アート・テイラー(ds)
パウエルの最高傑作のひとつ。全曲オリジナルでしかもそのどれもがいい曲。おまけに重いタッチでつぎつぎに繰り出してくる独特のアドリブライン、ブルーノート特有の録音による臨場感。「アメイジング」の1と2よりもこっちの方が聴く機会が多いです。有名な「クレオパトラの夢」の途中、パウエルが章節を見失う場面があるが、そのスリリングさが本当に素晴らしいし、それがあったからこそ不滅の名演となった。

BUD POWELL / Swingin' With Bud (RCA/1957)

バド・パウエル(p)ジョージ・デュビビエ(b)アート・テイラー(ds)
アルバムってA面の1曲目でその印象が決まると思うのですが、このアルバムなんてまさに1曲目のおかげで物凄くイイ印象があります。ピアノの音を浴びるように聴きたいけれどアップテンポじゃヤダってときにはこの曲なんてピッタリです。2曲目以降、くつろいだ演奏とアップテンポの演奏が交互にがつづきますが、どのトラックも重く濃い演奏です。40年代のパウエルこそが絶頂期と一般的には言われていますが、実はこのアルバムのようなパウエルこそが本当のパウエルの姿なのではないか、なんて思ってます。

BUD POWELL/BUD POWELL IN PARIS(reprise/1963)

バド・パウエル(p)ジルベール・ロベール(b)カンサス・フィールズ(ds)プロデュース:デューク・エリントン
出だしのシンバル音が有名です。プロデュースを担当したエリントンが意図的にやったものでしょうが、これはかなり効いています。パウエルの他のアルバムとはちょっと毛色が違う印象があるのはこのドラムの録音のおかげでしょう。エリントンの耳は素晴らしい。さてさてこのアルバムはパリでのパウエルを捕らえたものですが、勢いで聴けるアルバムです。ちなみにこの1月後、あのデクスター・ゴードンとの「アワ・マン・イン・パリ」というとんでもない名盤を録音したわけで、そう考えるとかなり調子のいい時期だったのでしょう。どのトラックも楽しげで、聴いてて気持ちいいです。

BUD POWELL/Bud Plays Bird (ROULETTE/1957)

バド・パウエル(p)ジョージ・デュビビエ(b)アート・テイラー(ds)
4ビートにのった圧倒的なピアノを堪能できます。この豪快な4ビートこそパウエルを聴くときの快感であって、天才的なアドリブがどうのっていうのは後回しでいいのです。とはいうものの、モードではなくバップイディオムでこれだけいろいろ弾きまくるのは並み大抵では無い。モードだと単に音をギッシリとを並べるだけという逃げができますがバップではそんなことは無理。とくにビバップにおいては本当に瞬間瞬間の勝負なので、ビバップ期からの王者パウエルのようにえんえんとメロディを紡ぎ出せるっていうのはとんでもないことではなかろうかと(天才なんだから当たり前かもしれませんが)。デュビビエ、テイラーのレギュラーメンバーを従えてのパウエル親分は実に楽しげです。あ、それとこのアルバムは音が凄くいいのでブルーノート盤と同様聴きやすいですよ。あと、7曲目の「ビリース・バウンス」でパウエルのアドリブパートに入っての最初の4章節…、パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」(ヴァーヴ盤の方)を聴いたことある人なら笑えます。

BUD POWELL / The Amazing Bud Powell Vol.1 (blue note /1949-51)

バド・パウエル(p)カーリー・ラッセル(b)マックス・ローチ(ds)ファッツ・ナヴァロ(tp)ソニー・ロリンズ(ts)トミー・ポッター(b)ロイ・ヘインズ(ds)
マックス・ローチ参加の「ウン・ポコ・ローコ」セッションが物凄いのです。この独特のドラムはローチの単なる思いつきっぽい(3テイク順を追っていくとだんだん洗練されていくため)のですが、かなりとんでもないドラムだと思います。パウエルもそれに負けじと物凄いインプロビゼーションを繰り広げておりまして、壮絶な3テイクです。ナヴァロとロリンズが加わったセッションは言うまでもなく文句ナシ!の名演ぞろい。パウエルとナヴァロが火花を散らします。ところでこのアルバム、レコードとCDとでは曲順が違っておりまして、さらに日本盤CDとアメリカ盤CDとでも収録曲が違い、日本盤CDも発売時期によって収録曲が違ってたりします。

BUD POWELL / Time Waits (blue note/1958)

バド・パウエル(p)サム・ジョーンズ(b)フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)
明るい曲調の曲で始まるアルバムです。こういったお祭り的な曲ではフィリー・ジョーのドラムが適役。やたらと盛り上げてくれてます。このアルバムは全曲パウエルのオリジナルっていうところがなんとも嬉しい。スタンダードもいいけどやっぱオリジナル曲を聴く楽しみは格別です。「ドライ・ソウル」に聴けるような深いブルース表現は40年代のパウエルには無かったもの。ますます深みを増すパウエルです。

BUD POWELL / Jazz Giant (verve/1949)

バド・パウエル(p)レイ・ブラウン(b)マックス・ローチ(ds)
いわゆる絶頂期と言われる頃の作品。冒頭の「テンパス・フュージット」から豪快に飛ばしまくります。このような疾走感はパウエルならではで、その後のパウエル派と呼ばれる無数のピアニスト達の実に「うまい」演奏とは微妙に違う(だからこそパウエルはジャズ・ジャイアントと呼ばれるわけですが)。このアルバムはヴァーヴでありながら音質がややあやしいのですが、パウエルの疾走感は他のアルバムよりひとつ頭が出てるといった感じだし、それを考えればこの音質も正解なのかなとも思います。ラストの「ボディ・アンド・ソウル」も実に深い!

BUD POWELL /1953 Autumn Sessions Broadcast Performances Vol.3(BASE RECORD /1953)

バド・パウエル(p)カーリー・ラッセル(b)アート・テイラー(ds)
「Autumn Broadcasts, 1953 」という題名でESPからCDになっているアルバムのアナログ盤です。イタリア盤でライナーもなにも無いために詳細はわかりませんが、ラジオ放送用にライブ演奏されたもの。1953年7月19日の演奏のラストにて「ララバイ・オブ・バードランド」をちらっと演奏してるところから、NYのバードランドでのライブ音源と思われます(この同じパターンでチャーリー・パーカーがシンフォニー・シドのラジオ放送番組での音源が多数あるため)。さてこのアルバムでは、かつてブルーノートでマックス・ローチと壮絶なバトルを繰り広げたいわく付きの名曲「ウン・ポコ・ローコ」をアート・テイラーのドラムでやっておりまして、なかなかの聴きものです。ローチがアフロスタイルならアート・テイラーはまるで軍隊の行進のような戦闘的なドラムです。また、この「ウン・ポコ・ローコ」のスタイルをそのまま持ってきたA-1も実に面白い演奏です。この時期のパウエルの音源にしては音質がやや悪いですが、パウエル聴くのにはそんなに支障は無いでしょう。

BUD POWELL /BUD POWELL (1947&1953/ROOST)

A面:バド・パウエル(p)マックス・ローチ(ds)カーリー・ラッセル(b)
B面:バド・パウエル(p)ジョージ・デュビビエ(b)アート・テイラー(ds)
言うまでもなくジャズピアノ史上に惨然と輝く名盤。A面の各アップテンポ曲でのめくるめくアドリブラインはめまいがするほど。A-2「インディアナ」のとんでもないテンポの曲でのマックス・ローチのブラシ・プレイかなり凄いです。スローの曲はB面のものの方が好き。B-6、7あたりはどことなくラウンジ感覚で聴けます。

BUD POWELL /At The Golden Circle Volume 1 (1962/SteepleChase)

バド・パウエル(p)トルビョン・フルトクランツ(b)スーネ・スポングベリィ(ds)
初期スティープルチェイス輸入盤は5曲入りでしたが、僕の持ってるのはその後の日本盤で、未発表曲が2曲追加されて全部で7曲入り。この2曲がかなり凄いので、7曲入りの方をおすすめします。もともと名盤の誉れ高いアルバムでしたが、この2曲のおかげでさらに名盤度アップ。未発表曲「Swedish Pastry」でどんどん調子に乗って行って盛り上がるパウエルはもう誰にも止められないって感じです。さて、このアルバムは1曲1曲が結構長くてパウエルのアドリブが延々とつづくのでかなり聞きごたえがあります。内容的には『シーン・チェンジズ』にも匹敵するほどの素晴らしさで、文句ナシ。後期パウエルっていうのは、クラシック的な意味で「ウマイ」演奏ってわけでは無い所がポイントで、たまによれよれになったりアドリブラインがあっちこっち行き過ぎてわからなくなったりするのですが、その未完成っぽい(あるいは人間味溢れる)プレイがあったからこそジャズの歴史にずーっと残っているのであり、きっとこれからもずっと聞き継がれていくのでしょう。聴いてる人は「正しい音」が頭の中にあり、それと実際に聞こえる音との微妙なズレを感じ取ります。そにこそ芸術の本質があるのです。チャーリー・パーカーにしても同じ事が言えると思います。「ムーブ」の疾走感を聴くべし!

BUD POWELL /The Genius Of Bud Powell (1950-51/verve)

バド・パウエル(p)レイ・ブラウン(b)バディ・リッチ(b)(1~4がトリオで5~12がピアノソロ)
言わずもがなの有名盤ですが、ピアノを浴びるように聴きたいときはこのアルバム!もう最初から物凄いです。超絶技巧と感動が結びつくっていうのはなかなか無いものですが、このアルバムは違います。とんでもないテクが音楽的感動に直結してるという珍しいアルバムです。トリオものも凄いんだけど、ソロがこれまた凄い。

BUD POWELL /At The Golden Circle volume 3 (steeple chase/1962)

バド・パウエル(p)トルビョン・フルトクランツ(b)スーネ・スポングベリィ(ds)
1曲目、アップテンポの「SWEDISH PASTRY」で18分以上にわたって休みなしに弾きまくるバド・パウエル。いいですねー。哀愁のあるアドリブが多い『The Scene Changes』なんかに比べるとやや単調な感が無きにしもあらずですが、それでもパウエルを聴く快感は変わらない。やたらとスローな「I Remember Clifford」ではパウエルの底知れぬ深さを感じます。

BUD POWELL /The Amazing Bud Powell vol.2.(blue note/1951-1953)
バド・パウエル(p)カーリー・ラッセル(b)マックス・ローチ(ds)

テーマの歌わせ方に、ふとクラシカルなヨーロッパ臭を感じることがあるわけです。アドリブのパートになるとバップ的というか黒人的というか、その手の独特なアクセントになるのですが、テーマ部だけ平面的ともいえるヨーロッパ臭を感じることがあります。面白いことにこれは所謂パウエル派ピアニストにはほとんど無く、バド・パウエルだけに感じるもの。たとえばここでは「シュア・シング」や「ポルカドッツ・アンド・ムーンビームス」など。57年の「BUD !」にはモロに「バド・オン・バッハ」というのがあるけど、バップピアノのオリジナルであり最高峰のパウエルにヨーロッパ臭を感じるというのは、実はとても深いものを直感してしまったりするのです。こういった目であらためてパウエルのアルバムを聴きなおしてみると、また新たな面白味が出てきます。

BUD POWELL / Bouncing With Bud (storyvill/1962)

バド・パウエル(p)ニールス・ペデルセン(b)ウィリアム・ショーフェ(ds)
1959年から64年までのパウエルのヨーロッパでの活動の間、N.Y.のジャズ界は目まぐるしい変化をとげるわけですが、パウエルは何も変わらず、N.Y.に戻ったときにはさぞかし浦島であったことでしょう。しかしながらパウエルの魅力が無くなったというわけでも無いところが凄いわけで、パウエルはやはりパウエルだったのです。モード、フリー、サードストリーム、新主流派…。そういった諸々のスタイルの変化などどこ吹く風。淡々と自分の演奏を繰り返すだけのパウエルは、後年になるほどその凄みが滲み出てくるように感じます。このアルバムは62年4月26日の録音。翌年の名作「バド・パウエル・イン・パリ」にも劣らない素晴らしいアルバムです。誰もが知ってる「バウンシング・ウィズ・バド」のピアノトリオ・バージョンが聴きもの。

BUD POWELL / Hot House (black lion/1964)

バド・パウエル(p)ジョニー・グリフィン(ts)ガイ・ハヤット(b)ジャック・ジェルベ(ds)
1964年8月フランスでの録音。ヨーロッパでの最後の録音と言われている音源です。パウエルのうなり声がいつにも増して凄いのはポータブル・テープレコーダーで私家録音されたものだからなのか、はたまたこの頃は演奏時にこんなに大声を出すようになっていたからなのか、あるいは単に酔っぱらっていたのか…。ピアノはややヨレヨレしているけど、そこがまた面白味になるんだからパウエルって人は不思議です。また、ここではジョニー・グリフィンが好調で(というかこの人はいつでも絶好調ですよね…)、グリフィンのリーダー作のように聴いてもイケるのでは。

BUD POWELL /The Return Of Bud Powell (roulett/1964)

バド・パウエル(p)J.C.モ-ゼス(ds)ジョン・オリー(b)

最晩年のパウエル。アメリカに帰ってからの録音です。おそらく最もひどいと言われる演奏のうちのひとつでしょう(笑)。とにかくパウエルがヨレヨレしてるもんだからドラムもベースもまごついちゃって…冗談キツイというか何というか(笑)。で、だからこそ面白い。これだけピアノとバックが合っていないものって本当に珍しい。JCモーゼスはこれではイカンと必死にNYコンテンポラリ-5時代を思い出して一気にフリージャズにでもしちゃおうか、なんて勢いでドラムソロを…、みたいな感じでしょうか(笑)。どの曲もドラムとベースは振り回されっぱなしなわけで…。しかし、それでも「ジャズ」になるってのがパウエルの偉大なところ。「ジャズ」として本当にスリリング。気がつけばロレツの回らないパウエルの音を必死に追っている。ソフィスティケイトされたジャズばかりになる60年代メインストリームの中で、これはかなり異様なものであることはたしかです。アイラーの持つイノセントさと同じものを感じます。常人とは次元が違うのです。

BUD POWELL / Portrait Of Thelonious��(CBS/1961)

バド・パウエル(p)ピエール・ミシュロット(b)ケニー・クラーク(ds)

絶頂期とされる40年代~51年頃までのものよりも、後期のものの方により魅力を感じてしまいます。ゴールデンサークルでのライブ盤や「バド・パウエル・イン・パリ」なんかは本当に素晴らしい。そして本作。モンクの曲ばかりを演奏したスタジオ録音です。 言わずもがなの名品。

BUD POWELL / Budism (steeple chase / 1962)

Bud Powell (p) Torbjorn Hultcrantz (b) Sune Spangberg (d)

こういうの聴いてると、もう一生パウエルだけ聴いて暮らしていたいなんて思ってしまう。いい意味でパウエルの大雑把さがよく出ているアルバム(ゴールデンサークルの未収録音源として出た3枚組)。結局バド・パウエルがジャズ史の中でも長年聴き継がれる存在でありえたのはこの大雑把さだと思うのだ。いや、大雑把はひどいか(笑)。ファジーさというか、おおらかさというか、余裕というか、アバウトさというか、天然っぷりというか、なんて言えばいいんだろうかこういうのは。とにかくそういう要素が他のパウエル派ピアニストらには絶対に無いものであり、パウエルの魅力となっているのだ。ちなみにチャーリー・パーカーにもこれと全く同じ要素があるのも興味深い。

BUD POWELL , DON BYAS /A Tribute To Cannonball (Columbia/1961)

Don Byas (ts) Bud Powell (p) Idrees Sulieman (tp) Pierre Michelot (b) Kenny Clarke (ds)

パウエルは晩年になればなるほどいい感じに崩れていく。この崩れ方こそがパウエルの魅力。そしてどんなに崩れてもタッチの重みがパウエル以外何者でもない。このへんの年代の演奏はどれも好きだ。ただ、ホーンの Don Byas と Idrees Sulieman にまるで興味が無い上、ここでもそれほど目立った面白さは感じなかった。自分的にはパウエルがいるからホーンは何だっていいのだ、といった感じか。

BUD POWELL / Blues In The Closet (verve/1956)

Bud Powell (p) Ray Brown(b) Osie Johnson(ds)

バド・パウエルのピアノは開放的なのだ。そこがパウエル派ピアニストたちと根本的に違うところ。その開放感は悪くいえばミスタッチも多いということでもあるのだが、それが未完成のような感触に繋がり、それこそが長年聴きつがれる要因であるとみた。そしてそこが他のピアニストには絶対に出すことの出来ない「味」となっている。完成品となっていないことで、聴く側にもイマジネーションを求める。聴く側も、想像上の完成品とのギャップを埋めるべく、想像力を必要とする。

ところで、パウエルのもうひとつの特徴は、過剰なほど分厚く重ねる和音(この点、何故かあのデイブ・ブルーベックと共通している)。しかもそこにミスタッチが混ざるので、何やらよく分からない不思議な響きとなることがある。中期~後期パウエルの得体の知れない独特さはまさにここから来るものだ。で、このアルバムもまたその分厚いピアノを堪能出来る。

このアルバムはパウエルのアルバムの中でも最も地味な部類に入るし、一般的には駄盤の部類に入るだろうけど、ある意味パウエルの演奏の典型(壊れたパウエルという意味で)を聴くことが出来る。ベースが達人レイ・ブラウンだから余計にそんな風にみえるのかもしれないが、パウエルのファンとしてはかなり興味深い、そして味わい深いアルバムとなっている。

Bud Powell / Summer Broadcasts (ESP/1953)

Bud Powell (p) Charles Mingus (b) Art Taylor (ds)
2曲のみ + Charlie Parker (as) Candido (congas)

1953年バードランドの5月、6月、7月の演奏。パーカー入り(2曲)。パーカー、パウエル、ミンガスの絡みが聴けるのが嬉しい。ここではミンガスのソロも力入ってます。このESPのBroadcastsシリーズ(4つある)は音がいまいちなものの、内容的にはなかなか充実してます。このSummer編でのパウエルは後半にいくにつれて神がかっていきます。

Bud Powell / The Essen Jazz Festival Concert (Black Lion/1960)

Bud Powell(p) Oscar Pettiford(b) Kenny Clarke(ds) Coleman Hawkins(ts)(6-9)

1940年代的なメンバーだけど(豪華だな)、1960年4月の演奏。冒頭のアナウンスや観客の反応からしてNYのライブハウスとはまるで違い、かしこまった雰囲気。とはいえパウエルはいつもと変わらず唸りながら弾いている。最初の5曲がトリオ。Oscar Pettifordがいるだけに、通常のパウエル盤ではありえないような展開も見られる。6曲目からはホーキンスが加わる。

BUD POWELL / Jazz at Massey Hall, Vol. 2 (debut/1953)

Bud Powell(p) Charles Mingus(b) Max Roach(ds) George Duvivier(b) Art Taylor(ds) Billy Taylor(p)

ミンガスがずっとメロディを取るBASS-ICALLY SPEAKING4連発はいらないと思うが(ここだけピアノがビリー・テイラー)、他は凄い。マッセイホールのトリオ演奏はComplete Jazz at Massey Hallの方を聴けばいいけど、デュビビエ、アート・テイラーとのトリオが入ってるから油断ならない。

BUD POWELL / Bud in Paris (Xanadu/1959-60)

Bud Powell(p) Johnny Griffin(ts 1-2) Barney Wilen(ts 3-6) Pierre Michelot(b) Kenny Clarke (ds)

60年あたりのパウエルの面白さは、その奔放なところ。「シーン・チェンジズ」が58年だからだいたいそのすぐ後の時期となる。冒頭のジョニー・グリフィンとのデュオなどはこの時期のパウエルでしか味わえないような微妙な崩れ方。「シーン・チェンジズ」後、パウエルがパリに行ってどんどん奔放になっていき、凄みを増して行く途上の音源。うなり声も凄い。

BUD POWELL / Return to Birdland, 64 - Earl Bud Powell, Vol. 9 (1964)

Bud Powell (p) John Ore (b) J.C. Moses (ds)

まるで酔っぱらって演奏しているかのように破滅的な演奏だけど、これが滅茶苦茶かっこいい。ミスタッチがやたらと多いにも関わらず、それがあたかも正しい音であるかのように感じられて、全体としてきちんと筋の通った音楽になってるところが凄い。1964年9月と10月のNYバードランドでの演奏。

BUD POWELL / Holidays in Edenville,'64 - EARL BUD POWELL Vol.8 (1964)

Bud Powell(p) Guy Hayat() Jacques Gervais() Johnny Griffin(ts)

1曲目のショパン・プレリュード20番、これだけでも価値アリ。ポリーニやアルゲリッチで聴きなれたプレリュードとはちょっと違う(そりゃそうだ)。別にジャズ風に崩して弾いてるわけでもなく、ごく普通にストレートに弾いてるだけなのに、不思議とジャズとしか言いようの無い響きを持ったものになってるわけで、改めてパウエルの大きさを実感。また、ライブの途中からジョニー・グリフィンが入ってきて、いきなり物凄い演奏が始まります。曲によってはパウエルの唸り声が凄いけど、タッチの重さはこの気合いから出て来るものなのかってのがなんとなく分かります。ときおり出てくるストライド奏法がしぶい(これは「パウエル派ピアニスト」が絶対にやらない。笑)。

BUD POWELL / Groovin’ at the Blue Note 59-61 - EARL BUD POWELL Vol.5 (Mythic Sound/ 1959-61)

Bud Powell (p) Zoot Sims (ts) Pierre Michelot (b) Kenny Clarke (ds) Jean-Marie Ingrand (b) Lucky Thompson (ts) Jimmy Gourley (g) Dizzy Gillespie (tp) Barney Wilen (ts) etc.

いくつかのセッションがごちゃ混ぜに入ってるアルバム。どれもフランスのブルーノート・カフェでのライブ録音。ズート入りの冒頭3曲とかとてもいい感じです。どのセッションもドラムがケニー・クラークなんだけど、やっぱりケニー・クラークがドラムだと音が締まるというか、特にワンホーンだと「アワ・マン・イン・パリ」な感じがあっていいですね。 

BUD BOWELL / Relaxin’ at Home, 61-64 - Earl Bud Powell, Vol. 4 (Mythic Sound/1961-64)

Bud Powell (p, vo) Francis Paudras (brush) Michel Gaudry (b)

パウエルが歌ってます。もちろん全部じゃなくて数曲だけですが�。4曲目のクリスマス・ソングを歌うパウエルはかなり御機嫌のようです。こういうの、かなり珍しいです。これまでパウエルの鼻歌が入ってるってパターンは多いですが、ちゃんと歌っちゃってます(笑)。また、録音のせいでほとんどの曲がピアノソロのように聴こえます。p+brushかp+bのパターンしか無いんだけど、とりあえず全曲ピアノソロとして聴けるのはなかなかいいかもしれない。また、曲目も結構珍しいのでなかなか貴重な音源だと思います。かなりイイです。

BUD POWELL / More Unissued Vol.1

Bud Powell (p) Charles Mingus (b) Roy Haynes (ds) Oscar Pettiford (b) Barney Wilen (ts) Art Blakey (ds) Kenny Clarke (ds) Pierre Michelot (b)

1が1953年のワシントンDCで、パウエル、ミンガス、ロイ・ヘインズのトリオ演奏でラストにジョー・タイマー・オーケストラが入る。2と3が1955年NY、4~6が1957年パリのクラブ・サン・ジェルマン、7~10が1959年パリのブルーノート、11~16が1959年パリのクラブ・サン・ジェルマン。全部ラジオの放送音源。当時はラジオでこんなカッコイイものが放送されてたとか、うらやましい限りです。どの演奏も一定の水準以上。音質はラジオだけにそれなりな感じだけど、逆に雰囲気が出ててこれはこれでアリ。

BUD POWELL / Burning in U.S.A. Earl Bud Powell, Vol. 2 (1953-1955)

Bud Powell (p) Oscar Pettiford (b) Art Blakey (ds) 他

すべてNY録音で、バードランドでのライブ中心にいくつかのセッションを寄せ集めたもの。TV放送音源など音質の悪いものも多いが、2曲目のTINY'S BLUESは「More Unissued Vol.1」の1曲目に収められているものと同一なのに音質が抜群にいい。これはかなりの名演なので聴き物。全般的にパウエルは好調。ディジー・ガレスピーなどもいたりしてメンバーも豪華です。

BUD POWELL / Award at Birdland ~ Earl Bud Powell Vol.10(1964)

Bud Powell (p) John Ore (b) J.C.Moses (ds) 

どれもこれもパウエルの懐の深さが滲み出るような演奏。ミスタッチによって偶然生まれる濁った音が、ミスとしてではなくそのままパウエルらしさとして立ち現れてくるんだから凄い。この音源は録音テープ自体に微妙な伸びがあるようで、途中よれよれする箇所があるんだけど、それすらもパウエルの音として聴こえてくる。

Bud Powell / Inner Fires (elektra/1953)

Bud Powell(p) Charles Mingus(b) Roy Haynes(ds)

1953年ワシントンDCでのビバップ・セッション。音質が悪いのでミンガスのベースの音が小さいけど、それでも熱気は伝わってくる。4曲目のソルトピーナツのように物凄いスピードで弾きまくるパウエルが見れるのはだいたいこのあたりまで。最後にパウエルのインタビューも入ってる。 

Art Blakey, Bud Powell, Barney Wilen, Wayne Shorter, Lee Morgan / Paris Jam Session ( Fontana/1959)

1-2 Bud Powell(p) Barney Wilen(as) Lee Morgan(tp) Wayne Shorter(ts) Jymie Merritt(b) Art Blakey(ds)
3-4 Lee Morgan(tp) Wayne Shorter(ts) Jymie Merritt(b) Art Blakey(ds) Walter Davis Jr.(p)

A面(最初の2曲)はリー・モーガンとショーターの双頭ジャズメッセンジャーズにバド・パウエルとバルネ・ウィランがゲスト参加したライブ。これが物凄い。パウエル御大に気を使ってなのかあるいは気遅れしたのか、1曲目も2曲目も出だしが曖昧な感じでホーンが入る。リー・モーガンの堂々としたプレイは群を抜いて凄いのだが、ショーターのコルトレーン節丸出しのプレーも物凄い。当時のコルトレーンはちょうどアトランティック時代。ショーターのフレーズもその当時のコルトレーンに影響されたかのようにぐいぐいと切り込んでくる。そしてソロも後半にさしかかるとコルトレーン節から例のショーター独自のミステリアスなフレーズへと徐々に変化していき、なんだか鳥肌立ちます。バルネ・ウィランはいつものテナーではなくアルトで、とにかく一生懸命さが伝わってくる熱演。そしてブレイキーの滅茶苦茶細かいシンバルワーク。こんなにも内容の濃いハードバップも珍しいくらい。で、パウエル御大はいつもどおりの演奏。あの「シーン・チェンジズ」の1年後です。ちなみにリー・モーガンがバド・パウエルと共演したのはこれだけ。またショーターもバド・パウエルと共演したのはこれだけ。ジャズ界の重鎮パウエルと新人のリー・モーガン、ウェイン・ショーターが交差したというだけでもなにやらドラマティックです。

Sonny Stitt, Bud Powell, J. J. Johnson (prestige/1949-1950)

Bud Powell(p) Sonny Stitt(ts) Curly Russell(b) Max Roach(ds)��J. J. Johnson(tb) John Lewis(p) Nelson Boyd(b)

パウエルとスティットの名演で名高いビバップ作品。パウエルは前半のみ(1~9曲目)で、スティット、ローチ、カーリー・ラッセルとのカルテット。パウエルに関してはちょうどこの時期の典型的な演奏で、とにかく凄い勢いです。音が湧いては転がり落ちていくような、40年代パウエルならではの疾走感。 

Bud Powell / Winter Sessions Broadcast 1953 (ESP/1953)

Bud Powell(p) Oscar Pettiford(b) Roy Haynes(ds)

1953年2月7日と14日のNYバードランドでのライブで、ラジオ音源。ちょうどあの「Jazz At Massey Hall」の3ヶ月前の音源。60年以降のゴールデンサークルなどの晩年の演奏よりもタッチがしっかりしていてメリハリがあり、「The Amazing Bud Powell vol.2」あたりの力強いタッチに近い。つぎつぎにいろんなアイデアが湧いて来るような「Tea Foe Two」が凄い。

Bud Powell / Writin' For Duke,63 "Earl Bud Powell Vol. 6"(Mythic Sound/1963)

Bud Powell(p) Gilbert Rovere(b) Carl Donnell "Kansas" Fields(ds)

エリントンがプロデュースしたPeprise盤のBud Powell in Parisと同じセッション(1963年2月)。実質上Bud Powell in Paris vol.2。最晩年のパウエルの中でも人気の高いBud Powell in Parisだけに、これもまた充実した演奏で、晩年のアルバムにありがちなライブ音源よりも丁寧な感じの演奏です。ちなみにこの1ヶ月後にブルーノートのOur Man In Paris��(デクスター・ゴードン)を録音してます。


(文:信田照幸)

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