PIANO(その4)最新記事はいちばん下


Duke Ellington / Money Jungle (United Artists / 1962) LP盤

Duke Ellington(p) Charles Mingus(b) Max Roach(ds)
このマネー・ジャングルのCDとLPとでは曲順が違うということを最近知った。僕がずっと持ってたのは1987年にブルーノートから出たCDで、1曲目が「Very Special」。しかしLP盤のオリジナルの曲順では1曲目は「Money Jungle」。CDでは2曲目と3曲目で地味目な「A Little Max」と「A Little Max」の別テイクが続き、そこがどうにも気に入らず、このアルバムの印象も損ねる結果となっていたのだが、LP盤の方ではそもそも「A Little Max」など入っていない。今ごろ知ったのは不覚だったが、知ってよかった。

1980年代半ばあたりからのジャズアルバムのCD化に際し、無闇に曲数を増やして曲順まで変えてしまうということが多く行われてしまったけど、あれは本当に悪しき風習で、あのせいで駄目になったアルバムは相当ある。別テイクだとか未発表曲などは、まとめて別のCDで発売すればよかったのだ。オリジナルの曲順を変えてまで別テイクなど入れる必要はなく、そんなものはむしろ蛇足以外の何物でもなかった。もちろんレコード会社は売るためにやったことなんだろうけど、完全にあれは間違いだ。

このアルバムも1987年にCDになった際に曲順を変えられ、別テイクと未発表音源が加えられてオリジナルの倍以上の内容となった。ひょっとしてあの時代はこのアルバムをレコードで持っているということが前提で、あえてその上でCDを買うということを想定していたのではないか。などと思えるくらいにズタズタにされてしまっているのだが、僕はそのCDで聴き慣れてしまっていたのだ。だもんで、LPを聴いてちょっと驚いた。印象がまるで違う。

CD版の方はミンガスの過剰なまでの自己主張がだんだん鬱陶しくなってきて全編集中して聴き通すのは結構キツかった。でもこのオリジナル(A面B面通して全7曲)だとエリントンのピアノの多彩さを感じ取ることが出来、主役のエリントンばかりが印象に残る。エリントンのピアノというのは杭を打ち込むかのように一音一音が強烈で、ゴツゴツとした無骨さと流麗さの混ざり合ったタッチを持つのだが、このアルバムではミンガスとローチを煽るかのようにその無骨な部分がより強く出ている。普段はメンバーを煽る立場のミンガスとローチがここでは逆にエリントン御大に煽られて必死になっているかのようにも見えるほど、ミンガスとローチのテンションが高い(実際にはミンガスがローチのプレイに文句を言って二人が衝突していたという話もある)。また、それらの強烈な曲に混ざって流麗なタッチの曲もいい具合に配置されている。

ちなみにCDは2種類あるようで、僕の持ってる1987年版CDの他に2002年版CDもあり、2002年版の方はオリジナルの曲順にプラスしてボーナストラックが8曲入っている模様。どうせ買うなら1曲目が「Money Jungle」から始まる2002年度版のほうがいい。ただ、ボーナストラック8曲はあくまでおまけ(あるいはドキュメント)として捉えたほうがこのアルバムの凄みが分かる。

Bobby Timmons / Chicken & Dumplin's (1965/Prestige)

Bobby Timmons(p, vib) Mickey Bass(b) Billy Saunders(ds)
ボビー・ティモンズのピアノは黒々としたブルースフィーリングと洗練された雰囲気とを併せ持っている。1曲目の「Chicken & Dumplin's」はその個性がよく出ている名演。また、本作ではボビー・ティモンズの珍しいヴァイブ演奏が聴ける。ティモンズのヴァイブは抑揚が少なく端正な感じで、どこか映画音楽やイージーリスニングを思わせるようなところもある。「モーニン」の強烈な印象のせいで真っ黒なイメージを抱きやすいが、実はティモンズにはこういうイージー寄りな側面もある。

Oscar Peterson / A Jazz Portrait of Frank Sinatra (verve/1959)

Oscar Peterson(p) Ray Brown(b) Ed Thigpen(ds)
1959年のオスカー・ピータソンのアルバム。この1959年というのはジャズ界がハードバップ、モード、フリー、ソウルジャズとやたらと賑やかになり始めた時代なのだが、そんな時代でもVerveというレーベルは全く動じない。とにかく何事にも動じないアーチストが揃っている。オスカー・ピーターソンだけでなく、ジョニー・ホッジスやらハリー・スウィーツ・エディスンやら、ディジー・ガレスピー、カウント・ベイシー、テディ・ウィルソン、ベン・ウェブスター、ロイ・エルドリッジ、レスター・ヤングなどなど上げるとキリが無いが、とにかくジャズ界の変革などどこ吹く風、己のジャズを演奏するのみ、みたいな重鎮が揃っており、とても信用できるレーベルだったりする。そんな中、断トツで多くのアルバムを出してるオスカー・ピーターソンはやっぱり凄いわけで、どのアルバムも皆同じ水準ってのも凄い。こうなるともう曲の好みでアルバムを選べばいい。このアルバムはシナトラ所縁の曲ばかりで構成され、いつもの豪快なスウィング感と、ちょっとしたラウンジ感覚も味わえる。

David Benoit, Gregg Bissonette, Brian Bromberg / Great Composers Of Jazz (Fine Tune/2000)

David Benoit(p) Gregg Bissonette(ds) Brian Bromberg(b) 
フュージョン・アーチスト、デヴィッド・ベノワのピアノトリオ盤。見事なライトジャズとなっている。こういうのは80年代Alfa Jazzレーベルだとか90年代のVenus Recordsレーベルだとか、澤野商会(澤野工房)などのBGMジャズみたいなのを彷彿とさせるわけだが、このアルバムは一見それらに似ているようでかなり違う。もう徹底的に雰囲気のセンスで勝負な感じなのだ。技巧は自己主張ではなく雰囲気作りの為だけに奉仕する。この清々しさはフュージョン・アーチストならではというところか。音の響きもいい。カウント・ベイシーの名演で知られるCute(2曲目)など入れるセンスも素晴らしい。ホテルのラウンジ度は非常に高し。ゴリゴリのモダンジャズの対極。

John Dennis / Debut Sessions (Debut/1955)

John Dennis(p) Charles Mingus(b) Max Roach(ds) Thad Jones(tp)
Debutレーベルからの「New Piano Expressions」と「JazzCollaboration」の2in1。Debuレーベルなのでベースとドラムはミンガスとマックス・ローチ。サド・ジョーンズが3曲参加。ジョン・デニスのデビュー作にして最後の作品となってしまったこれらの音源。どこかラウンジピアノ的な要素とスウィング感のあるバップが気持ちいい。トリオとソロが交互に並ぶ構成。3曲だけカルテット演奏があるけどこれも素晴らしい。ジョン・デニスの本質はラウンジ的なようだが、何せバックがミンガスとローチなのでラウンジ的に優雅に弾こうとしても強引にバップになっていくようなところがあったりする。チェロキーなんてこの二人に煽られてるような感じがしてかなりスリリング。

Thelonious Monk / Monk's Blues (Columbia 1968)

Thelonious Monk(p) Charlie Rouse(ts) Larry Gales(b) Ben Riley(ds) Oliver Nelson (cond) etc.
最近コロンビア時代のモンク(1962〜68年)を聴き直して感心している。どれも本当にいい。プレスティッジやリバーサイドの名盤群もいいが、テオ・マセロがプロデュースしたコロンビア時代もまた凄い。で、これはそのコロンビア時代の最後を飾るスタジオアルバム。モンクの録音は71年くらいまでしか残っていないので(というかそこまでしか演奏活動していないので)、このアルバムはかなりラストに近いということになるし、スタジオ録音としてはほとんど最後なのではなかろうか。バックにオリバー・ネルソン指揮のビッグバンドがついているが、どことなくビッグバンドとモンクがあまり混ざらない感じがある。しかしそこが妙にかっこいい。モンクやチャーリー・ラウズはコロンビア時代を通じてほぼ変わらない演奏なので、バックが変化するとまた違った楽しみ方が出来る。ちなみにこのビッグバンドにはトム・スコット、バディ・コレット、コンテ・カンドリ、ルー・タバキン、ハワード・ロバーツといったウエストコースト・ジャズの有名どころが集まっているが彼らは当時ハリウッドのスタジオ・ミュージシャンでもあった。

Earl Hines / Once Upon a Time (Impulse 1966)

Earl Hines(p) Aaron Bell(b) Richard Davis(b) Jimmy Hamilton(cl, ts) Pee Wee Russell(cl) Sonny Greer(ds) Elvin Jones(ds) Johnny Hodges(as) Russell Procope(as) Harold Ashby(ts) Paul Gonsalves(ts) Lawrence Brown(tb) Buster Cooper(tb) Cat Anderson(tp) Ray Nance(tp) Clark Terry(tp)
アール・ハインズ御大がエリントニアンを従えて作ったアルバム。スウィングなのにモダン。スウィングのセピア色のトーンがモダンで都会的な音に感じられる要因はボブ・シールのプロデュースのせいなのだが、これは本作にも参加してるポール・ゴンザルヴェスのインパルスのアルバムでも同じこと。とにかくカッコイイ(そういえばエリントン&コールマン・ホーキンスのインパルス盤もプロデュースがボブ・シールで、やはりモダンな響きだった)。このアルバムはエリントニアンのアクが強くて目立つもののアール・ハインズのあの転がるようなピアノもさらにアクが強い。だけどいい感じでピアノとホーンがミックスされている。あと、どのテイクもベースが物凄い。1曲だけヴォーカル曲があるけど、バラードなじゃくてブルースであるところが最高だ。



(文:信田照幸)



=HOME=

inserted by FC2 system