<TRUMPET その3>
(一番下が最近記事です)



ENRICO RAVA / Tribe (ECM/2011)

Enrico Rava(tp) Gianluca Petrella(tb) Giovanni Guidl(p) Gabriele Evangelista(b) Fabrizio Sferra(ds) Giacomo Ancillotto(g)

ECMの平均的な音ってこんな感じじゃなかろうか。いかにも北欧な感じの冷たい感触。ECMというのはECMというジャンルなんだなってことを思う。で、僕はといえば正直ECM的なるものに飽き飽きしてるわけなんだが、何故だかたまにドECM的なものが聴きたくもなる。特にコテコテでブルージーなものを聴いたあととか。太田胃散みたいなものか。このアルバム、曲調もそうなんだけど、曲と曲の間もなんだかビローンと長く、とにかく静か。音数はそれなりに多いはずなんだけど、印象としてはかなり静か。躍動感のあった前作「New York Days」とは対照的。

ALEX SIPIAGIN / Mirages (Criss Cross/2008)

Alex Sipiagin(tp, flugel horn) Seamus Blake(ts) Mulgrew Miller(p) Boris Kozlov(b) Johnathan Blake(ds)

60年代マッコイのBN作品のような怒濤のモード系。Alex Sipiaginのストレートに攻めまくる姿勢はかなりかっこいい。フリューゲルホーンのすこしくぐもった音の感触がアート・ファーマーやケニー・ドーハムなどを思い起こさせるけど、彼らよりやや端整(というかメカニカル)な分だけ白人っぽいというか現代的というか。そして何よりもAlex Sipiaginは吹きまくる。トランペットでこれだけ吹きまくるのはかなり貴重。また、Johnathan Blakeのドラムのノリが良すぎるくらいにイイので(シンバル最高)なんだかどの曲も良く聴こえる。この手のストレートアジヘッドな2管ハードバップではかなりの傑作ではないか。というかこれかなりお気に入りです。

Donald Byrd / Parisian Thoroughfare (1958)

Donald Byrd(tp) Bobby Jaspar(ts) Walter Davis Jr.(p) Doug Watkins(b) Art Taylor(ds)

先日亡くなったドナルド・バード。どの時期をとってもカッコイイという珍しい存在。時代とともにどんどんスタイルを変えていっても全然違和感が無いという珍しいパターン。僕はすべての時期のドナルド・バードが好きなのだ。このアルバムはByrd In Paris Vol. 1のつづき。現代ジャズをさんざん聴いた後になにげなくこれを聴いてブッ飛んだ。レベルが違いすぎる。メンバーがB級っぽいのに演奏は超A級。2曲目のParisian Thoroughfareの出だしなんて本当にかっこいい。ボビー・ジャスパーってこんなによかったっけかなあ、なんて思ってしまった。

Marquis Hill / The Poet (skiptone/2013)

Marquis Hill (tp, flugel horn) Christopher McBride (as) Justin Thomas(vib) Josh Moshier(p)
Joshua Ramos(b) Makaya McCraven(ds) Juan Pastor(per) Mary E. Lawson(spoken word)
Keith Winford(spoken word)

これはかっこいい。どこか昔の新伝承派っぽい臭いもしないでもないけど、これだけの格好良さがあればなんら問題ではない。演奏内容云々以前に音風景がなんとも素晴らしい。強烈なベースも最高。

Lee Morgan / The Gigolo (blue note/1965)

Lee Morgan(tp) Wayne Shorter(ts) Harold Mabern(p) Bob C
ranshaw(b) Billy Higgins(ds)

65年以降ののリー・モーガンのリーダー作では一番気に入ってるかもしれない。これ。ショーターのせいでミステリアスな雰囲気があったりして、かなり最高。2管のアレンジのセンスも抜群。ジャケ・デザインがリード・マイルスだったらもっとよかったかもなあ�。リー・モーガンとショーターの2管といえばこの前年の1964年の「Search For The New Land」やショーターのリーダー作「Night Dreamer」、さらに遡って1961年のジャズ・メッセンジャーズの「The Witch Doctor」「Roots And Herbs」「Pisces」「 Tokyo 1961」「A Day With Art Blakey 1961」や1960年のジャズ・メッセンジャーズ「Like Someone In Love」「Meet You At The Jazz Corner Of The World」などなど他にもあるけど、相性が抜群にいい。ちなみに1965年のリー・モーガンは「The Rumproller」「The Gigolo」「Cornbread」「Infinity」の順でブルーノートにリーダー作があって、ドラムはすべてビリー・ヒギンズ。なんか「The Sidewinder」(1963年)からの勢いみたいなのを感じます。 

Clark Terry / Serenade To A Bus Seat (1957/Riverside)

Clark Terry (tp) Johnny Griffin (ts) Wynton Kelly (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (ds)

クラーク・テリーがどうのとか言う前にまずこのリズムセクションだけで価値がある。フィリー・ジョー、チェンバース、ウィントン・ケリー。このリズムセクションなら演奏が悪いわけがない。しかも1957年。なんてことを言うとクラーク・テリーがオマケみたいだがそんなわけがなく、ベイシー~エリントンと渡り歩いてきた中間派クラーク・テリー vs マイルス軍先鋭集団のモダン派、のような面白さもある。というわけで、どこから聴いてもクラーク・テリーが浮いて聴こえるのだが、逆に言えばそれだけ個性的ということ。さすが名門ビッグバンド内でも埋もれないほどの個性だともいえる。そう考えると何やら凄みすら感じてしまいます。同じくベイシー楽団のサド・ジョーンズのソロ作群もそんな印象があるような。で、このアルバム。冒頭のドナ・リーからいきなき全開で飛ばしてて、なんとも爽快。ジョニー・グリフィンもちょうどブルーノートから凄い作品を出し続けてた時期だけに勢いが物凄い。

Ted Curson / Live At La Tete De L'Art (rans World/1962)

Ted Curson (tp) Al Docto r(as)Maury Kaye (p) Charlie Biddles (b) Charlie Duncan (ds)

オーソドックスで、くつろいだ感触のライブ・アルバム。全般的に滑らかに進む。まず、曲がいい。すべてテッド・カーソンのオリジナル曲(どっかで聴いたことあるような曲もあるが)。そして演奏もいい。テッド・カーソンを除いた他のメンバーは無名ではあるものの、みんな結構いい演奏。Maury Kayeのピアノにはリッチー・パウエルのごとき疾走感がある。1962年にしては録音状態があまりよくないけど、そんなことは気にならないほど内容が充実している。 

Joe Gordon / Lookin' Good!(contemporary/1961)

Joe Gordon(tp) Jimmy Woods(as) Dick Whittington(p) Jimmy Bond(b) Milt Turner(ds)

ウエストコーストに渡ってからのアルバム。ジョー・ゴードンは54年にemercyにファースト・ソロ・アルバム「Introducing Joe Gordon」(あのパキパキした演奏は凄まじい)を出してるけど本作はそれ以来の通算2枚目。そして本作がラスト・アルバム。contemporaryレーベルのからりとした明るい録音。東西どちらでも活動してるが、違和感無くウエストコースト風に聴こえてくるのはシェリー・マン、バーニー・ケッセル、ハロルド・ランドらのアルバムに参加してたりしたからだろうか。それとも単に録音のせいなのか。元々ブラウニー系の安定したプレイスタイルの持ち主。バックがどうあれ(本作はバックが弱い)それなりに聴かせる。個人的にセロニアス・モンクの「At the Blackhawk」(1960)でのジョー・ゴードンが印象深いが、本作でのcontemporary特有の明るい音質に乗っかったジョー・ゴードンも魅力がある。ちなみにこのアルバムでは脇役のはずのジミー・ウッズが意外に目立っている。

MARQUIS HILL / THE WAY WE PLAY (concord/2016)

Marquis Hill(tp) Chrsitopher McBride(as) Justin Thomas (vib) Joshua Ramos(b) Makaya McCraven(ds) etc.

マーキス・ヒルのデビュー作。最初聴いた感じでは、どこかかつてオーフィー・ロビンソンが出て来たときのようなチープな印象を受けたけど、何度か聴いてるうちに印象が変わってきた。最初の方にヒップホップ風のナレーションが入ってたり、ドラムが攻めてたりするけど、そこらへんを受け入れられるかどうかが鍵。全般的に案外攻めているのだ。マーキス・ヒルのプレイ自体は安定しすぎているほど安定していて昔の新伝承派的だったりするのだが、むしろ個性を強調するのではなく音楽全体をトータルで捉えているような感じ。リズムにいろんな工夫があって、どれも楽しめる作りになっている。コンコード・レーベルというのがちょっと意外。

Louis Smith / Here Comes Louis Smith (blue note/1957)

Louis Smith(tp) Cannonball Adderley(as) Duke Jordan(p) Tommy Flanagan(p) Doug Watkins(b) Art Taylor(ds)

「バードランドの夜」にも匹敵する、あるいは凌駕するほどの熱さ。クリフォード・ブラウン&ルー・ドナルドソンを彷彿とさせるルイス・スミスとキャノンボールの一大バップ・セッション。落ち着く暇も無いほどの真剣勝負という感じ。ブラウニーのようにブリリアントなルイス・スミスも凄いが、ここは何と言ってもキャノンボール。58年あたりまでのキャノンボールは本当に凄い。「サムシング・エルス」では牙を抜かれたようになってたキャノンボールも、ここではSavoyでのキャノンボールと同様に本領を発揮して物凄い勢い。

Carmell Jones / The Remarkable Carmell Jones (Pacific Jazz/1961)

Carmell Jones(tp)Gary Peacock(b) Harold Land(ts) Leon Pettis(ds) Frank Strazzeri(p)

サイドメンとしてたまに名前を見かけるというか、ホレス・シルヴァーの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」に入ってた印象の強いカーメル・ジョーンズの数少ないアルバムのうちのひとつ(これがファースト・アルバム)。元々が西海岸のスタジオ・ミュージシャンだったからか、音が安定していていかにもウエストコーストな匂いがします。で、この手のアルバムにはだいたいハロルド・ランドかテディ・エドワーズがいるものだが、ここでもやっぱりハロルド・ランドが。こんなこと書くと、なにやら予定調和なウエストコースト・ジャズのようだけど、ベースにゲイリー・ピーコックがいます。で、だいたいこういう所ではベースにルロイ・ヴィネガーもいるもんだが、何故かゲイリー・ピーコック。ちょうどゲイリー・ピーコックがニューヨークに出る直前の演奏です。バラード曲では案外攻めてます。このベースのおかげで、本来カッチリしてるはずの音がどこか横揺れ的浮遊感があるというか、50年代ハードバップから微妙に変化した60年代初頭的な音だなあと。

Nat Adderley / Branching Out (riverside/1958)

Nat Adderley(cornet) Johnny Griffin (ts) Gene Harris(p) Andy Simpkins(b) Bill Dowdy(ds)

リズムセクションはスリーサウンズ。本作はスリーサウンズのブルーノートのデビューアルバムと同時期に録音された。スリーサウンズは元々リバーサイドと契約していたそうなので、本作の方が録音は早かったのかもしれない。というわけでこのアルバム。ナット・アダレイのブリリアントな演奏が光るが、僕はやっぱりバックのリズムセクションが気になるわけで、初期スリーサウンズの小気味好い演奏ばかりに耳が行く。ちなみにジョニー・グリフィンも絶好調で2曲目では気迫の篭った豪快なソロが聴けます。

Miles Davis / Round About Midnight (1957)

Miles Davis(tp) John Coltrane(ts) Red Garland(p) Paul Chambers(b) Philly Joe Jones(ds)

その昔LPでさんざん聴き倒したこのアルバムなのだが、ボーナストラック入りのCDが出てたのを知らなかった。これまでの6曲の他に、4曲ほどプラスされている(他のアルバムにバラバラに散らばってたものをまとめただけだが)。こういうのはだいたいに於いて蛇足な感じなのだが、このアルバムを聴き慣れた者からするとやっぱりこれも蛇足な気がしないでもない。とはいえ演奏自体は一定レベルを超えたもので、さすがこの時期の神がかったマイルス・グループは別格なのだなあと思った次第。で、このアルバムなのだが、冒頭のラウンド・ミッドナイトや、バイバイ・ブラックバード、ディア・オールド・ストックホルムといったミュートをつけたプレイがあまりにも有名すぎてその後の曲は埋もれてるような印象すらあるんだけど、2曲目や5曲目のバップなんて本当に素晴らしいし、僕としてはこちらの方が好みだったりする。そういう意味ではボーナストラックのバップの数々はかなり嬉しい。コルトレーンしかソロを取らないTwo Bass Hitなども、どこかリハーサルっぽい未完成感が逆に面白い。

Thad Jones / Thad Jones (Debut Records / 1954-55)

1954 : Thad Jones(tp) Charles Mingus(b) Frank Wess(ts, fl) Hank Jones(p) Kenny Clarke(ds)
1955 : Thad Jones(tp) Charles Mingus(b) John Dennis(P) Max Roach (ds)
サド・ジョーンズのデビュー作。10インチ盤「The Fabulous Thad Jones」にミンガスとの「Jazz Collaborations, Vol. 1」を加えたもの。1955年のカルテットが物凄い。1曲目の「Get Out of Town」なんかミンガスの豪快なベースにローチの例の独特なシンバルが目立つドラムをバックに朗々と吹きまくるサド・ジョーンズがなんとも気持ちいい。このカルテット演奏はすべて名演だ。1954年のクインテットの方はある意味Debutレーベルらしい粗悪な音質。この音質によって素晴らしい演奏も多少印象が落ちる。このアルバムの後、サド・ジョーンズはブルーノートから「Detroit-New York Junction」「The Magnificent Thad Jones」(ともに1956年)という生涯の代表作にしてジャズ史上に残る名作を出すことになる。ちなみにサド・ジョーンズがカウント・ベイシー・オーケストラのメンバーになったのはこのアルバムが録音された1954年。

Enrico Rava / Animals (INAK/1987)

Enrico Rava (tp、Flugelhorn) Furio Di Castri(b) Mauro Beggio(ds) Augusto Mancinelli(g, syn)
タイトルからしてスティーブ・レイシーとの「森と動物園」を思い出してしまうんだが、内容は全く違う。1曲目の「Animals」なんてマイスル・デイヴィス「The Man with the Horn」に入ってる「Shout」に似た限りなくフュージョンっぽい曲。だけどこれが本当にかっこいい。この独特なリズム(ベースとギターのセンスが素晴らしい)はクセになる。この曲だけでこのアルバムは価値がある。録音はイタリアのミラノで、メンバーは全員イタリアのミュージシャン。

Miles Davis ‎/ Cookin' At The Plugged Nickel (CBS/1965)

Miles Davis(tp) Wayne Shorter(ts) Herbie Hancock(p) Ron Carter(b) Tony Williams(ds)
今さらながらにこのアルバムの物凄さに感動しているわけだけど、やはりトニーのドラムというかシンバルワークに心底驚く。トニーのリズムの波というかモヤというか、その上に乗ってそれぞれの楽器が最小限まで切り詰めたような抽象的なソロが浮かんでいくといったようなそんな光景。何故か視覚に訴える音楽。マイルスの音楽はだいたいにおいて視覚的だ。8枚組のプラクドニッケルのコンプリード盤を初めから聴いてると途中でお腹いっぱいになってくるので、これくらいがちょうどいい。

Clark Terry / Clark Terry (EmArcy/1955)

Clark Terry(tp) Horace Silver(p) Art Blakey(ds) Jimmy Clevelan(tb) Cecil Payne(bs) Wendell Marshall(b) Oscar Pettiford(b, cello) Quincy Jones(arr)
クラーク・テリーのソロデビュー作。クラーク・テリーはエリントン楽団の一員であるだけでなく、クインシー・ジョーンズ楽団の常連でもあった。このアルバムから4年後にクインシー・ジョーンズ楽団に加わり有名作がどんどん録音されていく。で、このアルバムもアレンジがクインシー・ジョーンズ。そしてクインシーの曲も3曲ある。クラーク・テリーは比較的中間派寄りな印象があるけど、このアルバムはかなりモダン。もちろんクインシーのアレンジのせいもあるけど、ホレス・シルヴァーとアート・ブレイキーが揃っているのがでかい。


(文:信田照幸)


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