純邦楽(その1)


西村虚空/虚鐸

虚無僧尺八です。尺八のソロ演奏。この西村虚空の吹くのは通常の1尺8寸のものではなく、3尺2寸という大きさのもの。とにかく、まっすぐな音。まるで竹のごとくまっすぐにストレートな音です。早送りするとメロディが分かるってくらいにゆ~っくりと吹いてます。虚無僧っていうのは普化宗(ふけしゅう)という禅宗の一派の托鉢僧のことで、お経を読む代わりに尺八を吹くというなんともわかりづらい人達です。だいたい普化宗には教典などというものは無く、ただ尺八を吹くことイコール読経ってことだそうで、釈迦と何の関係があるのかよく分かりませんが、なにやら楽しそうです。虚無僧に関して調べてみると実に複雑でいまいちよく分からない部分が多いのですが、要するに「一音成仏」ってことなのでしょうか?この西村虚空の演奏はまさにそんな感じの爽快さがあります。このCDを流してるだけで部屋の空気感が変わります。

雅楽の世界(上)/東京楽所

雅楽の有名曲を集めた2枚組。歌曲が凄く面白い。雅楽特有の発声法で繰り出される声のイメージは「濃紺」。なんとなく森の朝って感じで気持ち良いです。また、たまに出てくる琵琶の素朴で美しい音色にも魅せられてしまいます。こういった雅楽に使われるのはシブい音の楽琵琶。この楽琵琶
の音色がとにかく素晴らしい。


江戸の文化~歌 (Columbia)

『江戸の文化』というシリーズもののCDで、これはその第2巻の「歌」編。主に芝居小屋で舞台音楽として上演され観客が享受した三味線音楽が収められてます。この中の長唄がすごくいい感じ。江戸時代ってば落語の世界をすぐに思い出してしまうのですが、こんないろんな種類の音楽をみんな楽しんでたんだなあって思いながら聞くと感慨深いものがあります。

能楽囃子~至高の四重奏(JVC)

笛、小鼓(こづつみ)、大鼓(おおづつみ)、太鼓のカルテット。ゆったりとしていながら熱気も帯びた演奏。能楽囃子というのは結構好きなので沢山アルバムなどを聴きたいんだけど、実はそんなにCDがあるわけではないのだ。というわけで貴重。

甦るオッペケペー・1900年パリ万博の川上一座

明治時代の音源。またこれは日本人初の録音物だそう。パチパチいうスクラッチ音が郷愁を誘う
。冒頭の「オッペケペー」が強烈。長唄やら講談やらいろんなものが入ってます。中には「笑いの試験」というただ笑うだけの珍妙なものもあって、なにやら長閑です。どれも時間が短いのであっという間に終ってしまうように感じます。1900年前後といえばフランス画壇では印象派の画家達が日本の浮世絵等を高く評価したり模写したりしてた頃ですが、この川上一座もジャポニズム・ブームの一貫で取り上げられたものなのでしょう。

浪曲・日本の芸能シリーズ/清水次郎長外伝/初代広沢虎造

「石松と見受山鎌太郎」と「石松と都鳥一家」が収録されてます。語りと唄で出来上がる浪曲はかなり面白いです。この広沢虎造のダミ声は典型的な浪曲師って感じ。語りのバックで薄く三味線等の演奏が聞こえてくるのも心地よいです。やや硬い感じのテンポのいい浪曲。

日本古代歌謡の世界

千年も前から日本に伝わる神楽歌、国風歌舞、朗詠などが収められたCD4枚組。これらは宮中の秘楽として受け継がれ隠されてきた音楽だそうで、この録音はかなり貴重だということだそうです。僕はいまいちその重要性がわからないので勝手にこの音楽の面白さを享受。まっすぐな声の出し方とか、時間感覚が麻痺するかのようなゆったりとしたリズム感とか、とにかく面白い。録音に物凄く気を使ってるCDで、臨場感や残響音などちゃんと考慮し、なおかつ20ビットCDです。

瞽女うた/長岡瞽女篇(off note)

瞽女(ごぜ)さんとは昔の盲目の女旅芸人たちのことだそうで、農村等を回って唄や演奏などを披露し生計を立てていた人達だとか。これはその瞽女さん達の音楽を録音した貴重な音源。娯楽の少ない農村ではこの瞽女さんが来るのを楽しみにしていたそうです(また、神聖視されてたそうです)。「盲目」「女旅芸人」「農村」っていうキーワードからかなり暗くて重いイメージを連想しますが、音楽を聞いてみると全くそんなことはなかったりします。意外に明るい。このアルバムには1956年から1977年までの録音のものが入ってて新潟の長岡瞽女という集団のもの。ライナーノーツには瞽女さんに関するいろんなことが写真付きで紹介されてますが、これらはあまりに重いので読まないほうがこの瞽女音楽を素直に楽しめます。1967年録音の冒頭の曲はジョン・リー・フッカーのワンコード・ブギーみたいな物凄い曲。2曲目以降のミディアム~スローな展開の曲も三味線の音色が生々しく、かなり凄い。戦前のディープなカントリー・ブル-スにも通じるものがあります。このコーナーの中でも別格で好きなアルバム。

日本の大道芸 チンドン屋 (king Record)

意外に単調な演奏で、鑑賞というよりもBGM的に聞き流すように出来ている。でも本来宣伝のためのチンドン屋さんの音楽があまりに観賞用だったらちょっとあれなので、これはこれでいいのかもしれない。ジャケのイラストの細部(肝心のチンドン屋さんが…。サックスなのか笛なのか微妙な…)がかなりいいかげんで、ちょっと「?」なわけですが、もう少しまともなイラストレイターは居なかったんでしょうか。しかしながらこのアルバム、結構楽しいので早く終ってしまうように感じます。「東京チンドン」(篠田昌巳)のようにライブ音源は入ってませんが、それでも楽しい!小一堂宣伝社社中、万宣伝社社中、野村宣伝社社中の演奏が入ってます。最近チンドン屋なんて全く見かけませんが、どこでやってるんだろう。曲によってはどことなくニューオーリンズのパレード音楽っぽく聞こえたりします。とはいえ、やっぱあのチンドン屋さんの音楽なんですが。有名な「美しき天然」が出てきたときには「おおっ!」っと乗り出してしまいました。

日本吹込み事始~1903年ガイズバーグ・レコーディングス

これが日本における史上初のレコーディングだそうです(1900年の「甦るオッペケペー」はフランス録音)。CD11枚組の全集も出てますがこちらはその中から18曲抜粋したもの。いきなり君が代で始まります。内容は雅楽、箏、能、狂言、長唄、義太夫、落語…などなどバラエティに富んでます。歴史的な音源ということは抜きにしてもかなり面白いアルバム。邦楽の入門編としてもいけそう。この中でも特に豊年斎梅坊主の大道芸「かっぽれ」が凄い。明治時代のパワーを感じます。

人間国宝シリーズ/義太夫/竹本綱大夫(columbia)

人間国宝だそうです。人間国宝って後継者があまり居ないような廃れかかったジャンルからしか出ないそうで、以前柳家小さんが人間国宝に選ばれたときに、ああ、落語もこうなったか…って思ってしまいました。それはさておき、このアルバムなんですが、この竹本綱大夫の唄と語りからなる義太夫であります。バックの義太夫三味線の音がやや低い音でまとめらててかっこいい。音の独特なゆらぎも義太夫三味線ならでは。ねばっこいボーカルで延々50分の熱演です。

古今亭志ん生/あくび指南・天狗裁き・安兵衛狐(ponny canyon)

志ん生の出囃子が流れてくると妙にわくわくするから不思議です。志ん生の落語だったら何でも好きなのですが、中でも特別面白いのがあって、たとえばここの「あくび指南」。何度聞いてもいつも同じ所で笑ってしまうのだ。ちなみに志ん生の極め付けは「妾馬」。これほど面白い落語を他に知りません。内容は分かっているのに、しゃべりの技術だけで何度も笑わせてくれるんだから物凄い。

林家三平/源平盛衰記・三平グラフィティ(VICTOR)

僕は子供の頃落語のテレビをたくさん見てまして、ついでに落語の本なんぞも読んでおりました。で、当時いろいろいた落語家の中でもこの林家三平という人は柳家小さんとともに最もよくテレビで見た人かもしれません。林家三平はとにかく話は全部くだらなくて、
子供の頃の僕はこのくだらなさに爆笑してました。ということでこのCD。源平盛衰記とはいうものの脱線しすぎてなんだかわからない…。43分に及ぶ「三平グラフィティ」…こっちも凄いです。これはいくつかの音源を再編集ものですが、歌や講談等を交えながらの落語。ちゃんとCDに題名と作詞作曲だれそれって書いてあるのもなんだか笑えます。それにしてもこの怒濤の勢い…。あ、あと話のはじめと終りにお囃子がテンテケテンって感じで入ってまして、なんかなごみます。古今亭志ん生の真打披露口上も入ってます。癒し系音楽の100倍は癒されます。

日本民謡の旅/サム・テイラー

ホンカー系ジャズマンだった頃のサム・テイラーを知る人なんか今やどこにもいません。…でもいつからムード・サックス奏者になったんでしょうかね?てことで、このアルバムはタイトルどおり日本の民謡をやってます。佐渡おけさがボサノバ調だったりソーラン節がラテン調だったり真室川音頭が4ビートのスウィングたったり会津磐梯山がブロウアップみたいな映画音楽風だったりと、陳腐そのものなんですが今となっては面白い。しかし日本民謡は和音階のためアクが強く、どうアレンジを変えようがやっぱ民謡なのでした。日本民謡を題材にとったムードミュージックです。

竹一管/青木鈴慕

尺八のソロ。有名な「鹿の遠音」から始まって全11曲。こういうのってどうしてもジャズ的に聴いてしまうクセがあって。昔好きだった阿部薫とかアンソニー・ブラクストンとかエヴァン・パーカーとかミッシェル・ドネダとか…。そのあたりのサックス奏者の壮絶なソロなどと比べて聴いてしまう。なのであまりまともなリスナーではないでしょうが、つまりは僕にはそのような面白さを感じるということでもあります。このCDには古典曲に混ざって青木鈴慕が作曲した現代音楽作品も収録されていて興味深いです。ただ僕は古典曲の方が好きですが…。

武下和平/東節(ひぎゃぶし)

本土と沖縄のちょうど中間にある奄美の民謡。沖縄と本土の両方の文化を受け入れてきたという奄美のしまうたはちょっと独特で、沖縄音階を使わないけれどどこか沖縄っぽい。裏声をよく使うのも奄美のしまうたの特徴のようです。カラっとしてて小気味よい三絃の音色も気持ちいい。この三絃のフレーズがこれまた独特で思わず聞き入ってしまいます。この方、奄美大島では『百年にひとりのうたしゃ』と言われてるそうで、自在な裏声がなんとも素晴らしい。

囃子~邦楽決定版2000シリーズ

これは楽しい。日本の4大囃子といわれる神田囃子、佐原祇園囃子、葛西囃子、祇園囃子が収録されてます。一応囃子にも曲がいろいろあってそれぞれに味わい深い。こういうのって僕の中では完全にBGMなんですが、あえてこうやってCDで鑑賞するとかなり面白い音楽です。リズムが意外に複雑。

春鶯囀一具(しゅんのうでんいちぐ)/東京楽所

雅楽は笙(しょう)のブワ~って音がどうしてもうっとおしく感じられてなかなかとっつきにくい。これもまた笙の音が全開でどうも耳がおかしくなりかけてきた頃、だんだんと麻痺してきて笙の音が感じられなくなってきて、ゆったりとメロディ展開に身を委ねることが出来るようになってきました(それまでは笙の音がシンセサイザーの音のようにうざくてしょうがなかったのですが…)。6曲目の「鳥声」で出てくる箏の音がなんとも清々しい。

ビクター邦楽名曲集 雅楽名曲集

雅楽というのは千年以上の歴史を持つ世界最古の伝承音楽ということだそうだけど、こうやってそれらの名曲を普通に聴けるというのはよく考えれば不思議だし有難い。当初の音はいったいどうだったのは誰にも分からないけど(もっとテンポが速かったのではという説もある)、これらを聴いて昔の音を想像するのも面白い。

コロムビア邦楽名曲コレクション20/常磐津

清元より少し派手な印象のある常磐津。バックの大鼓、小鼓、太鼓、三味線、笛、囃子などがにぎやかで楽しげです。全部で3曲入ってますが3曲目なんて30分もあったりして白熱しています。朗々とした歌声に上評子が入り、三味線と太鼓が盛り上げます。非常に心地よい音楽。

コロムビア邦楽名曲コレクション20/清元

なにげに愛聴盤です。このアルバムでの清元はバックが三味線だけなので非常に聴きやすい。ゆったりとしたノリで長~くつづくので気持ちよく聴き流せます。一曲の中でテンポがつぎからつぎへと変わったりします。一時期、中毒的にハマりました。

ビクター邦楽名曲集 琵琶

琵琶の形って非常に美しいし、音色も美しい。だもんで、うっかり自分でも琵琶(筑前琵琶)を買ってしまったんですが…、やはり難しい…(そりゃそうだ)。さて、このアルバムには鶴田錦史による「壇の浦」「本能寺」、山元旭錦による「茨木」が収録されています。薩摩琵琶をベンベンってやりながら勇ましく唸るボーカル。すごい気迫です。語り(歌)の部分では琵琶はあまり弾かず、句切りの部分に弾きます。やはり琵琶の音色にばかり耳が行ってしまいます。薩摩琵琶は琵琶の中でもいちばんいろんな表情があるので面白い。山元旭錦による筑前琵琶は繊細な音色で、これまた魅力的。独特の音の広がりがとてもいい。

女流浪花節 其の五「神田祭り吉五郎義侠伝」「大正ロマン竹下夢二物語/夢二の女」/板東紫

浪花節です。三味線とボーカルとかけ声のコンビネーションがぴったりで気持ちよい。神田祭り、竹下夢二といった題材も分かりやすくていい。板東紫の勇ましさに圧倒されます。

河内音頭~日本の芸能シリーズ・伝統

浪曲を音頭でやりましたって感じの面白い音楽。関西の方の音楽だそうですが、僕はこのCDではじめて聞きました。関西では盆踊りのときにこんな音楽がかかるんでしょうか?こっち(東京)では東京音頭や炭坑節、オバQ音頭なんかがかかります。ところで、かつてアフリカの音楽でこれと同じようなのを聞いたことがあるんですが。かん高い弦楽器の音なんかほとんどそれと一緒。不思議です。

日本の民謡特選~お座敷唄編

「金比羅舟々」が凄くいい!僕が子供の頃、親が使ってた目覚まし時計がなぜか金比羅舟々だったのだ…。ずいぶん変わった目覚まし時計使ってたんだな…。盆踊りでよく聞く「ドンパン節」や、名前だけ知ってた「よさこい節」「おてもやん」「長崎ぶらぶら節」など、いろいろ入ってます。僕にはエスニックっぽく感じます。

箏~人間国宝シリーズ/富山清琴

「人間国宝シリーズ」というタイトルがなんだかすごい。「六段」からはじまります。軽やかな中にも一音一音説得力があります。ひとつの音をいちいち揺らすところなどもなかなかにスリリングです。歌の入るものが2曲ほど入ってますが、上野茂都みたいにどこか抜けてて親しみがわきます。

ビクター邦楽名曲集 端唄名曲集/市丸、千本歌扇、栄芝

栄芝といえばジャズファンの間では近藤等則との共演で知られてるかもしれません。が、こちらが本業。端唄は短くコンパクトにまとまってるので非常に聞きやすい。このCDは3人の唱い手の端唄が入ってまして、どれもが非常に面白い。ときおり音頭みたいなリズムのものがあったりします。端唄の歌詞ってちょっとユーモラスなところがいい。なんとなく天気の良い日に静かに聞きたいアルバム。

街角のうた~書生節の世界/神長瞭月、秋山楓谷・静代、塩原秩峰、坂下信月、鳥取春陽、横尾晩秋、植中文春、桂狐月、吉田一男、石田一松(大道楽レコード)

大道楽レコードからの幻の名盤。発行枚数が少なかったのかそれとも単に売れなかったのか、あっという間にCDショップから消えましたね、これ。大正時代~昭和初期の書生節のSP盤をおこしたディープなCDです。戦前ブルースの決定的名盤として「サン・ハウス&チャーリー・パットン/伝説のデルタ・ブルース・セッション1930」というCDがありますが、この「街角のうた」はそれに匹敵、あるいはそれ以上のインパクトのあるCDです。とにかく凄い、そして素晴らしい。「ヂンヂロゲとチャイナマイ」「デモクラシー節」「タマランソング」「ホイホイ節」「のんき節」といったものは題名だけで笑えますが、実際内容も面白い。「私の商売」にも爆笑です。あと、有名な「パイのパイのパイ」も「ジョージアソング」として入ってます。フィドルの弾き語りがシブすぎる。どれも日本でしかありえない旋律とリズム感とユーモアを感じます。

正調日本民謡ベスト撰集・東日本編

東日本の民謡が29曲入ってるCD。日本民謡に疎い僕なんかにはありがたいアルバム。僕は昔から日本の民謡ってあまり(ていうか、全く)聞いてこなかったので、なんだかエスニックな印象です。このアルバムの収録曲は主に三味線、笛、尺八、鳴り物などが伴奏ですが、CDのジャケに「唄:地元民謡歌手」なんて書いてあるのがなんともアバウト。そしてこうやって地方別に聞いてくると、青森と秋田って結構濃いんだなあと思ってしまう。このCDの中では山形の花笠音頭が気に入りました。音頭ってばその昔、日本テレビでやってた「ドラえもん」(半年で終わってしまった幻のアニメ。今のテレ朝でやってるのとはかなり雰囲気が違う。)の主題歌が音頭調でした。花笠音頭にも出てくる「やっしょ~まかしょっ」っていう間の手もこのドラえもんの主題歌に使われてました。

武満徹/雅楽 秋庭歌一具(東京楽所)

現代雅楽の名曲として知られるもの。伝統的な雅楽は結構単調で間延び感があったりするんですが(そこがよかったりもしますが…)、これは全く間延びしない。つぎからつぎへと違う景色が現れてくるような感じで、面白い。そして、音と音との「間」が凄くイイ。この「間」も音楽になっています。

正調日本民謡ベスト撰集・西日本編

先に紹介したものの西日本編。これまた「唄:地元民謡歌手」なんて書いてありましてなんともアバウトなんですが、それでも中身はかなり充実。「越中おわら節」が歌のメロディとユニゾンで胡弓が入っておりまして、これがなんとも味わい深い。あと、僕の好きな「金比羅船々」も入ってて嬉しい。島根の「安来節」が何故かブギーっぽいのも面白いで。こうやって西日本のトラッド・ミュージックをずーっと聞いてくると沖縄の音楽だけ明らかに違うんだけど、やはり沖縄は日本というより琉球王国って感じなんでしょうか。

瞽女(ごぜ)うた /高田瞽女篇
 
『瞽女・盲目の旅芸人』(斉藤真一著/日本放送出版協会刊)という本がある。ひょんなことから瞽女に興味を持った筆者斉藤真一氏が、瞽女さんの住むという越後の高田まで出向き、杉本キクエの家までたずねる。そして杉本キクエからいろいろ話を聞き、筆者が自分でかつて瞽女さんたちが旅した山村の家々をかたっぱしから訪ねてみて瞽女についていろんな人に話を聞く、という壮大なドキュメント。そして瞽女唄に関する独自の研究も詳しく書かれてある。この本は杉本キクエとその弟子の杉本シズ、難波コトミのことが中心となっていて、とにかく面白すぎるくらいに面白い。そして、この「瞽女(ごぜ)うた /高田瞽女編」というCDはその杉本キクエと杉本シズ、難波コトミの演奏がおさめられている。『瞽女・盲目の旅芸人』とともにこれを聴くと瞽女に対する理解も深まることと思うけど、この本はとっくに絶版。

ということで、このCD。瞽女パート1の長岡瞽女篇の方に比べると、こちらの方がややシブい。長岡瞽女篇の方がジョン・リー・フッカーばりのブギーとドロドロ系スロー・ブルースだとすると、高田瞽女篇の方はブラインド・レモン・ジェファーソンばりのリズミカルでシンプルなブルース、とでもいうところでしょうか。長岡瞽女篇と同様に高田瞽女篇も三味線の「音」が強烈。別に津軽三味線のような「いかにも」な強烈さではなく、ひとつひとつの音の存在感が圧倒的なのです。録音物からこれだけのものが感じられるんだから、さぞかし生音は本当に凄かったのでしょう。

瞽女さんの活動していた頃の越後という所はとにかく山村で、文化の入り込む余地の全くないくらいの山間僻地ばかり。そしてそういった山深き村では冬の間などは文字どおり全く娯楽などはなくなるそうで、春になるとやって来る瞽女さん達のことを本当に心待ちしていたそうです。そしてラジオやテレビなどのあまり無い頃など、瞽女さんの唄から流行歌を知ったりしていたそうです。ネットでいつでも世界中と繋がってる現在からは全く想像できませんが、こういった隔絶された場所が全国各地にあったからこそ瞽女唄というある意味特種な文化が成熟できたのかも。

「瞽女(ごぜ)うた 」の長岡瞽女篇と
高田瞽女篇のCDは、かつてはとても豊かだった日本の土着の唄が聞ける珍しくて貴重な音源です。

お笑い百貨事典~明治時代 文明開化の嵐を越えて

<万歳>三河万歳(杉本キクイ)/<落語>二人ぐせ(橘家圓喬)/<民謡>江州音頭(桜川寿賀富士)/<落語>三人旅(初代 三遊亭圓右)/<民謡>能登チョンガリ節(平山清司)/<落語>そば屋の笑い(快楽亭ブラック)/<落語>長屋の花見(三代目 蝶花楼馬楽)/<はやり唄>オッペケペー(神長瞭月)/<はやり唄>ドンドン節(桜井敏夫)/<はやり唄>ストライキ節(あさの明花)/<落語>粗惣長屋(三代目 柳家小さん)/<万歳>掛合咄(豊年斎梅坊主)/<民謡>伊勢音頭(豊年斎梅坊主)
いきなり瞽女の杉本キクイの演奏から始まる。三河万歳というのは漫才の源流みたいなものなのだそうですが、現在の漫才とは違って祝福芸みたいなものだったそうです。というわけで、この「お笑い百科事典」ってCDは日本のお笑いを時代別に編集した優れもの。落語の数々はどれも録音状態が悪いけども、明治時代録音の落語というのもなんだか趣きがあります。このCDの中で一番強烈なのはラストに2曲入ってる豊年斎梅坊主。物凄いパワーです…。

お笑い百貨事典~大正時代 大正モダンの波を受けて

<落語>専売芸者(初代 柳家小せん)/<民謡>安来節~浅草木馬亭ライブ(三朝小唄,八木節入り)(稲葉雪子,岡田照子,天野豆子,美山たかね)/<落語>見世物風景(初代 柳家三語楼)/<落語>権助提灯(三代目 三遊亭圓馬)/<はやり唄>のんき節(添田知道,小沢昭一)/<上方落語>阿弥陀ヶ池(初代 桂春団治)/<漫才>お笑い民謡お国めぐり(中村春代,砂川捨丸)
70年代後半にNYのハーレムあらりから発生したラップ/ヒップホップの原点を鮮やかに見せてくれた「ワイルド・スタイル」という映画があります。その中に黒人ラッパー達によるラップ合戦をクラブでやる場面があるのですが、このCDの2曲目「安来節」を聴いてそのラップ合戦を思い出してしまった。この安来節は日本版のラップ合戦ではないか!Jラップ(笑)の元祖か?安来節~三朝小唄~八木節とメドレーでやってきて、そこから「歌げんか」「歌問答」といわれるラップ合戦(?)になる壮絶なライブ。ラップというにはリズムが八木節ですが、そこがまた面白いところ。というわけで「お笑い百科事典」の第2弾のこのアルバム。大正時代っていうのはなんとなくモボモガのおしゃれなイメージがありますが、この音源たちもおしゃれっぽいかも(?)。古今亭志ん生も稽古してもらったという初代柳家小せんの落語はなんだか心地よい唄でも聴いてるかのような音のゆらぎがあります。鼓をポンポコたたきながら漫才する砂川捨丸と中村春代もかなり面白い。民謡を題材にした漫才です。

一龍斎貞丈/日本の芸能シリーズ・伝統「講談」

「恩田木工」と「柳生二蓋笠」を収録。ライナー等詳しい資料は全く入ってません。講談に詳しくないのでよくわからないので何代目の一龍斎貞丈なんだか不明(六代目かな?)。「恩田木工」は録音も鮮明なスタジオ録音。「柳生二蓋笠」は古いライブ録音。僕は単純にこの話芸を楽しむことが出来ます。「柳生二蓋笠」はなにやら落語的な味わいもあって楽しい。

藤本二三吉/端唄・春雨/梅にも春

端唄のEPレコード。A面が「春雨」、B面が「梅にも春」。僕が端唄と藤本二三吉に興味を持つきっかけになったレコードです。ドーナツ盤レコードで聴く端唄はその面倒な行為も含めて実に味わい深い。

藤本二三吉/二三吉端唄(上)(下)・邦楽全曲集
 
SP盤からの復刻音源CD。このCDによって端唄の魅力に開眼。三味線の軽やかな音色とそれにピッタリ会った藤本二三吉の声。とにかく素晴らしい。かなり中毒気味に何度も何度も聴いてしまいます。

小唄名曲集・ビクター邦楽名曲集(11)/春日とよ喜、春日とよ福美、春日とよ五千代、井筒綾美、本木寿以、蓼胡満喜、市丸

つぶやくように歌う小唄はその軽さが心地よい。撥ではなく指でつま弾く軽やかな三味線。そして軽やかな唄声。一曲一曲が非常に短いのもこれまたいい感じ。名人達の至芸を気軽に味わえる好盤。

新内名曲集・ビクター邦楽名曲集(8)/富士松鶴千代、富士松小照、菊沢一千代、富士松時之助

「蘭蝶 ~若木仇名草」と「明烏 ~明鳥夢泡雪」が収録されています。先日あるイベントにて俗曲の柳谷小春さんが「明烏」の途中まで歌いまして、その後に上野茂都さんが出たのですが、上野さんは自分の唄に入る前にその「明烏」のつづきの部分をすらすら~って歌い、「と、こんな感じでつづくんですよね」とか言ってました。さすがです(…って、プロなんだから当たり前か)。というわけで、このアルバムに収録の新内。僕はこの三味線がすっかり気に入ってしまいました。こんなけだるい感じの三味線がずっと流れてたら気持ちいいですね。

中村鶴城/平家物語をうたふ

薩摩琵琶鶴田流の中村鶴城のアルバム。「那須与一」と「俊寛」が入ってます。このCDはとにかく琵琶の録音がいい。中村鶴城の豪快な薩摩琵琶の繊細な部分まで綺麗に聞こえます。琵琶という楽器の最も一般的なイメージはたぶんこんな感じなのではないでしょうか。何度聴いても聴き飽きない。

橋本敏江/六道~平家琵琶灌頂の巻より完全収録

平家琵琶前田流の相伝者
。冒頭に長い平家琵琶のソロパートがあって、そこがイイ。平家琵琶のしぶい音色が味わえます。平曲っていうのは基本的に語り(というか唄)が中心なので、琵琶はアクセント的にしか弾きません。小出しに弾く琵琶の音をじっくり聴きます。

平曲のすべて『平家琵琶』(一)(二)(三)/館山甲午、井野川幸次検校、土居崎正富検校、三品正保検校

第一集と第三集が館山甲午、第二集が井野川幸次検校、土居崎正富検校、三品正保検校の三人の演奏。館山甲午の演奏は録音に難があって琵琶の音色を楽しむにはちょっとつらいかも。しかし第二集はなかなかクリアな音で平家琵琶の音色を味わえます。そもそも平曲というのは平家物語の語り(唄?)を聞くのがメインであって、琵琶はアクセント的しか出てこないので、琵琶の音だけ聞きたいという僕のような聞き方は邪道。しかし、それでもやっぱり平家琵琶の音色は魅力的で、この音色だけじっくり聞きたい。

邦楽全曲集「琵琶」(columbia)

1.石童丸(錦心流琵琶)永田錦心 /2.西郷隆盛(錦心流琵琶)榎本芝水 /3.本能寺(錦心流琵琶)大館錦棋/4.弓流し(平家琵琶)湯浅半月/5.本能寺(薩摩琵琶鶴田流)鶴田錦史/6.川中島(薩摩琵琶)吉村岳城/7.湖水渡り(筑前琵琶)豊田旭穣/8.義士の本懐(筑前琵琶)田中旭嶺/9.松の廊下(筑前琵琶)高野旭方/10.茨木(筑前琵琶)山崎旭萃
琵琶のいろんなスタイルが味わえるアルバム。中でも平家琵琶の湯浅半月、筑前琵琶の田中旭嶺と高野旭方が凄くツボ。湯浅半月は今は途絶えてしまった波多野流平家琵琶の最後の伝承者だそうで、この音源は波多野流平曲の唯一の録音だそうです。時間にしてわずか3分ながら、平家琵琶の地味で強烈な音はやはり存在感があります。逆に軽やかな筑前琵琶は三味線っぽいフットワークの軽さが魅力的です。また、薩摩琵琶錦心流の創始者の永田錦心や薩摩琵琶鶴田流の創始者鶴田錦史などの歴史的音源も聴けて実に嬉しいアルバムです。こうやっていろんな流派をまとめて聴くと、鶴田流の派手さということが際立ちます。

決定版・都々逸入門/日本橋きみ栄、柳家三亀松、都家かつ江

日本橋きみ栄のシンプルな都々逸が心地よい。定型詩が特徴の都々逸とはいえ端唄小唄的な身軽さがなかなかよいですね。三味線だけ聴いてても心地よいです。日本橋きみ栄さんには「端唄俗曲傑作集」というLPレコードがあって(未CD化)、そちらも素晴らしい。

中村鶴城/琵琶(薩摩琵琶 壇の浦・敦盛)

実にはっきりくっきりとした録音で、先に紹介した『平家物語をうたふ』同様に琵琶の音色をすみずみまで堪能出来ます。薩摩琵琶のたたきつける奏法の派手さ加減から繊細な表現まで、とにかく綺麗に聞こえる録音。ライナーでは薩摩琵琶鶴田流の創始者鶴田錦史の「琵琶の未来を担う人」という文章が出ています。

芳村伊十郎/長唄 勧進帳・橋弁慶

長唄はいろんな要素が詰まっていて実に面白い。特にこれなんかはメインの芳村伊十郎の唄の他に複数の唄方、三味線、囃子方が実に生き生きとしたうねりを作り出していて、とにかく圧倒されます。一曲の中でつぎつぎといろんな展開があって、スリリングです。

上原まり/怪談「耳なし」芳一を語る

筑前琵琶の上原まりは筑前琵琶旭会総師範である二世柴田旭堂の子供だとか。現在では筑前琵琶では最も知られている人かもしれません。また、宝塚歌劇団でも大活躍した人で、その経験からでしょうかこのCDでの語りや歌はどれも大仰な感がなきにしもあらず。しかし琵琶の方は本当に素晴らしく、筑前琵琶ならではの華麗な表現で魅せてくれます。

柳家紫朝/粋曲

最小限の音だけで表現するこの人の三味線はちょっと凄い。力がぜんぜん入ってなくて鼻歌のようにさりげないこの歌い方もかなり凄い。小唄、端唄、都々逸、新内流し…といった俗曲をほんとににさりげなく表現。三味線はぽつりぽつりと最小限の音数で、だからこそ一音一音の存在感が大きく出てきます。ジャカジャカと弾きまくる津軽三味線などとは正反対の表現方法です(パワーとスピードを強調し「力強いこと、早いことは良いことだ」というアメリカのロックのマッチョ的なやり方が津軽三味線であり、だからこそ津軽三味線系の人のアルバムにはバックに妙な打ち込み音が入ってたりダサいロック調のバックがついてたりするのが多いのだ…と思うのですが、どうでしょう?)。柳家紫朝の三味線の表現は、なんというか、純日本的。江戸の俗曲はシンプルで、草食的で、飄々としていて、細面…、そんな感じ。実にかっこいい!僕はこのアルバムの中で新内流しが特にお気に入りで、この三味線の旋律がずーっとつづいて欲しいほど。何故だかこの旋律は懐かしい。

愛八/長崎ぶらぶら節

シンプルな三味線と飾り気の無い唄が非常に魅力的。大衆向けに演出された端唄小唄の類とは全く逆に、余分なものを削ぎ落として出来上がった芸風のように感じます。

平安朝 殿上人の秘曲/東京楽所

雅楽の琵琶(楽琵琶)と箏(楽箏)に焦点を当てたアルバム。平安期に絶滅した曲や明治期以降に絶滅した曲、そして秘曲などを復元して録音したという非常に面白い企画。楽琵琶のソロ曲(5曲もあります)なんて本当に珍しいです。どの曲も優美で深いものばかり。インスト好きの僕としては楽琵琶のソロと楽箏のソロばかりのこのアルバムは嬉しいかぎりです。

江戸の文化~艶

かつて柳家小春さんの演奏会で新内流しを聞いてからというもの、すっかり新内流しの魅力に取り付かれてしまったのですが、このアルバムの冒頭には三味線2つだけの新内流しが入ってます。 わずか6分ですが(それでも長い?)、ここをリピートでず~っと聞いてます。幽玄とでもいいましょうか…、とにかくたまらない演奏です。

坂田美子/琵琶 うたものがたり

美声で知られる坂田美子さんのファースト。薩摩琵琶なんだけど、この人のどこか優美で繊細なプレイは筑前琵琶にも通じます。力強さと繊細さを合わせ持つ見事な表現力です。琵琶の音だけに興味のある僕のような者でも声のトーンが美しいのでついつい語りの方にも耳がいってしまいます。

川村旭芳/筑前琵琶のしらべ

これまで聴いてきた筑前琵琶の中ではもっとも気に入ってるアルバム。祇園精舎、伽羅の兜、雪女、かぐや姫、月ぬ美しゃ、の5曲入り。伽羅の兜にはゲストで能管が入り(この能管がこれまた素晴らしい!)、かぐや姫では胡弓(もちろん日本胡弓です)が入ります。月ぬ美しゃは琵琶と胡弓のデュオです。静かな鐘の音から始まるこのアルバムは全体の流れもよく一気に聴き通してしまいます。クリアな音で聴く筑前琵琶は繊細でありながらもダイナミック。薩摩琵琶のような派手な奏法がないのに実にバラエティに富んだ音が聴けます。

桜井真樹子/水の白拍子

CDの帯に『平安時代に「白拍子」という、歌って舞う女性アーティストがいた。彼女たちは、日本の女性プロ・ミュージシャンの始まりでもある』と書いてあります。桜井真樹子さんは声明のヴォーカリスト。このアルバムは桜井真樹子さんの声明と雅楽(3人がバックを担当)が合体したようなアルバムで、ノリとしては雅楽の朗詠や催馬楽みたいな感じです(独唱もあって、これもおもしろい)。現代では声明と雅楽は一緒にやることがありませんが、平安の頃にはこういうことをやっていたらしく、明治以降、雅楽は神道、声明は仏教というように分けられましたが、昔は神仏混合ってことで一緒にやってたそうです。また、声明は現在では男性(お坊さん)しかやりませんが、大昔は尼僧、白拍子という女性達がやってたこともあったそうです。かつて日本にあった音楽を復元してみた、というアルバム。

天台声明・金剛界曼陀羅供

仏教儀式の伝統的な声楽曲である声明。どこかグレゴリオ聖歌にも通じるものがある。日本の音楽の原点ともいわれる声明を聴いていると、静かに流れる時間というものを意識してしまいます。

日本の放浪芸・四/語る芸=盲人の芸

青森の「いたこ」の音源が入ってます。これが凄い。弓を使っての「梓みこ」なんていう「いたこ」の音源なんてどっから聴いてもアフリカの民族音楽ではないか…?「いたこ口寄せ風景」や、「おしら祭文」などはなんだかとぐろを巻いた空気が流れこんで来るかのようです。そして、このアルバムでのもうひとつの白眉は肥後琵琶が聴けること。今は絶滅してしまった熊本の肥後琵琶の貴重な音源です。琵琶の物凄い音色にビックリ…。なんなんだこの音は…!琵琶に乗せてお下劣な唄を歌う「チャリ」なども珍しいです。他に新潟の「ごぜ」や岩手の「おく浄瑠璃」、山形の「早物語」も収録。「ごぜ」は長岡瞽女で、門付唄のワンコード・ブギーのようなノリが面白い。「おく浄瑠璃」は三味線法師みたいな人で、低めに調弦された三味線の音色が面白い。

釈文・琵琶盲僧の世界/高木清玄・永田法順

本物の琵琶法師の音源がこうやってCDで聴けるというのがなんだか凄い。このアルバム、とにかく度胆を抜かれました(笑)。衝撃度でもナンバーワン。まずは高木清玄の般若心経でぶっ飛びます。こんな変なお経だったら毎日でもお寺に聞きに行きたい。不思議な音色の琵琶によるドライブ感溢れるリズムにのっての般若心経。これで踊れそう。クラブDJだったらこれを流して客の反応を見たい!(笑)。一方の永田法順もこれまた凄い。こちらは琵琶の音色がやや高い音に調弦されていて、三味線にも通じる軽やかさ。リズムの取り方がどこか民謡っぽいのですが、これが31分もずっとつづくのでトリップしてしまいそうです。そしてこの人の声!なんという深いダミ声(笑)。ハウリング・ウルフにも通じる迫力。ちなみに現在ではこの永田法順氏が最後の琵琶法師だということです…。

日本の音風景~日本の心音

1.お水取り/東大寺二月堂(東大寺大衆) 2.春の小川(和歌山県) 3.森のウグイス(栃木県日光市中禅寺湖畔) 4.水琴窟(高崎の水琴窟) 5.那智の滝(熊野権現 那智大社別宮 飛瀧神社) 6.雷岩の海鳴り(岩手県) 7.外畑の蛙鳴(宮城県気仙沼) 8.山寺の蝉(宝珠山立石寺) 9.盆踊り/郡上節「三百踊」(郡上節保存会) 10.宮城野のスズムシ(仙台市宮城野区岩切城址) 11.蒸気機関車(JR山口線 ) 12.除夜の鐘(天台宗比叡山延暦寺)

環境庁が選定した「残したい日本の音風景100選」の中から12種類の音を集めたCD。すべて現地録音。この中で僕がいちばん気に入ってしまった「音」はカエルの鳴き声(7)とセミの声(8)とスズムシの声(10)。スズムシの声の他のバッタの声なんかも混ざっててかなり最高。なんだかのどかな気分になります。ちなみに虫の声を聞くという習慣は欧米には無いそうです。あと、4の水琴窟というのも面白く、江戸時代に庭師が考案したもので、手を洗った水が穴から水滴となって落ちる仕掛けになっていてその音色が琴に似た音になるというもの。琴というよりスティール・パンみたいですが非常に面白い音です。11の蒸気機関車のノンビリした音も実にいい感じ。日本という所はこんなにも美しい音にかこまれていたのかと気付くかもしれないアルバム。

館山甲午/平家琵琶の世界~祇園精舎

平家琵琶といえばこの人。平家琵琶のアルバムとしては最高峰。平家琵琶は薩摩や筑前のような「さわり」がないだけ素朴な音色です。ここではその素朴な音をなかなかいい録音で聴けます。冒頭の「祇園精舎」は平曲の中でも難曲と言われる秘事(平曲は演奏の難易度によって平物、拾物、秘曲、秘事と4つに分類されているそうです)。ここでの平家琵琶の独奏部分は聞き物。薩摩琵琶や筑前琵琶とは全く違ったエキゾチックな響きすら感じるこの音色は、琵琶という楽器のルーツであるペルシャを思い浮かべてしまいます。

月のみや「ひとつの響きより~壹越の巻~」(Bamboo)/石川高・平井裕子・中村仁美

現代雅楽。笙(石川高)神楽笛、龍笛、楽箏、さはり(以上平井裕子)、篳篥(中村仁美)という雅楽楽器で奏でられる実に美しい雅楽の曲の数々にすっかり魅せられてしまいました。前半がオリジナルで後半が古譜から復曲したという雅楽古典曲。3人とも伶楽舎に所属しているメンバーです。まずはタイトル曲の「月のみや」。楽箏をバックに石川高の朗詠のような唄が最初の3分くらい入るのですが、これが実に素晴らしい。唄はこの曲のこの部分しか入ってませんが、全編石川高の唄が入って欲しかったくらいにこの唄は素晴らしいです。さてこの曲、唄の後は篳篥が静かに奏でられ、そのあと笙に受け継がれます。途中、鈴のような音が入り、笙と篳篥の合奏へ。静かに静かに曲が流れてあっという間の10分50秒。ちなみにこの曲は3人の合作です。2曲目の「祈り」は平井裕子の作。3曲目「あわい」は石川高の作。4曲目「ゆらめき」は中村仁美の曲。どれもそれぞれ自分の楽器を最大限に生かして、優雅に且つ静かに進みます。この3曲はなんとなくひとつとして捕らえることが出来るような流れです。ラストは迦陵頻の音取・序・破・急までの一具。和楽器の音色と響きの美しさを再発見できるようなアルバムです。

東大寺 お水取りの声明

なんとこれ、サントリーホールでライブ録音された声明。だからなのか、なんとなく他の声明CDよりも音楽的に聞こえてきます(気のせいか)。そしてなんとこれ、歌詞(お経)とその訳が全部出てる。まあ、歌詞読んでも特に面白いわけではないんですが…。このライブ、声明にしては所々エキサイティングなところもあったりして、面白いです。たまに出て来るチャリリーンという鈴(?)の音がかわいい。

雅楽・音楽ー日本の伝統Vol.1/天理大学雅楽部

うちの近所の駅の近くに天理教の建物がありまして、そこの建物から雅楽の練習の音が聞こえてきたりすることがあるんですが。ドーンという太鼓の音やビャ~っていう篳篥、笙の音なども聞こえてきてなにやら楽しげ。天理教では音楽研究会雅楽部というのがあって演奏会なども頻繁にあるようです。というわけでこれは天理大学の雅楽部のCD。大学の雅楽部とはいえ、ここは伝統もあり非常に評価の高い所だそうで、海外公演なども頻繁に行っているそうです。このCDは管絃・謡物・舞楽の3部構成でそれぞれ響きが美しい。催馬楽の「何為(いかにせん)」がすごくいい感じ。

雅楽・∞のミクロコスモス/東京楽所

このアルバムは雅楽の中でもかなりのお気に入りです。萬歳楽、蘭陸王、納曽利の3曲入り。萬歳楽の抽象的な音の加減はどこかドビュッシーやラヴェル等のフランス印象主義音楽に通じるものがあるような、ないような。ちなみにこれは舞楽曲で、「大平楽」とともに天皇即位の礼のときに舞われるそうです。

天平琵琶譜「番假崇」-甦る古代の響き/芝祐靖・伶楽舎

正倉院に古文書の中から発掘したという世界最古の琵琶譜を芝祐靖が解読し、正倉院に伝わる楽器を復元して演奏したという凝りに凝ったアルバム。番假崇という曲が3ヴァージョン入ってまして、1曲目は楽琵琶のソロ演奏。2曲目は現在の雅楽楽器による唐楽スタイルの演奏。3曲目は正倉院復元楽器による演奏。どの曲も聞き物はやっぱり楽琵琶のシブい音色。「わび・さび」という日本古来の美意識がありまあすが、この楽琵琶の鈍い感じの音色こそまさにわびさびの美学。ゆっくりとしたアルペジオでしか弾かないというだけでも奇妙なのに、ベンベンという弦の音はあまりにも鈍く、三味線や箏・琴などに比べるとトーンがはっきりとは分かりづらい。この微妙さ加減の味わい深さ!完全にアメリカ化した現代の日本の音楽に慣れた耳からするとなんとも摩訶不思議な音に聞こえます。

梵鐘

1.妙心寺梵鐘(京都花園)2.観世音寺梵鐘(太宰府)3.東大寺大仏鐘(奈良)4.西光寺梵鐘(福岡)5.尾上神社〈尾上の鐘〉(加古川)6.金峯山寺〈旧世尊寺鐘(吉野三郎)〉(吉野山)7.笠置寺〈解脱鐘〉(京都)8.大御堂寺(野間大坊)梵鐘(愛知)9.建長寺梵鐘(鎌倉)10.円覚寺梵鐘(鎌倉)11.称名寺梵鐘(横浜金沢)12.霊山寺宝城坊(日向薬師)梵鐘(神奈川伊勢)13.園城寺(三井寺)梵鐘(大津)14.方広寺梵鐘 �(京都東山)15.知恩院梵鐘 (京都東山)16.浅草寺時の鐘(東京)17.妙心寺梵鐘(京都花園)

奈良時代~江戸時代にかけての全国の梵鐘の音色を納めたCD。梵鐘といっても僕は除夜の鐘しか聞いたことありませんが、これで全国の名梵鐘の音色の数々を堪能出来ます。ヨーロッパの鐘の音とは全く違う「もったり」とした音色を聞いてるとやっぱり気分は大晦日…。Take6の金峯山寺の鐘の音は、ボーンという音のあとにスズムシがリ~ンリ~ンと鳴いてて、なかなか風流。

平安の饗宴・そのころ都に流行る音楽/伶楽舎

平安時代の貴族たちが楽しむ機会だったという御遊や渕酔(えんずい)など(今でいう宴会みたいなものでしょうか)では一体どんな音楽芸能をやっていたのか?というのを再現してみたというアルバム。7曲目の「水猿曲」って曲は桜井真樹子『水の白拍子』にも収録されてました。ひとりが歌い出したあと、他の人も歌に加わってきて楽器も加わっていく。よく考えてみれば平安貴族たちの音楽ってJ.S.バッハ(1685~1750)よりぜんぜん前。そんな時代の音楽をここにそのまま再現するって、これはかなり貴重なのでは。今聴くとやけに新鮮な音楽。

つづれおと/十二世 都一中(常磐津文字蔵)

一中節の「道成寺」と常磐津の「三世相錦繍文章 三社祭禮之段」の2曲入り。一中節では都一中と表記され、常磐津では常磐津文字蔵と表記されてるのがなんだか面白い。「道成寺」は能が原曲ということもあって、落ち着きのある曲になってます。テンポよく調子のいい常磐津の「三世相錦繍文章」の方は三社祭の模様から始まるので、もう楽しさいっぱいといった感じ。イントロからして楽し気です。

うめ吉/大江戸出世小唄

先日、新宿の末広亭でこの檜山うめ吉さんの唄と演奏と踊りを見ました。その存在感たるや、ちょっとただ者ではない。お座敷芸だからなのか、声は少し小さめ。そして、そこがなかなかよかったりします。さて、このアルバム。純邦楽というよりも、エキゾチック・ジャパン的なスタンスの取り方です。この「色物」的な安っぽいノリはベースが入ってるせいなわけですが、この俗っぽさはあえてやってるものと見ました。あまりお高くとまらず、あくまで庶民の俗な世界にこだわる。民謡などの伝統的な曲を素材にした「うめ吉」独自の世界を繰り広げたものともいえるのではないでしょうか。ちなみに僕は「佐渡おけさ」のようなアコースティックのものや「磯節」「都々逸」などの三味線弾き語りの方に強く惹かれます。

うめ吉/明治大正はやりうた

名盤ってのはジャケットを見ただけで分かる、ってのはジャズの世界での話ですが、このジャケも名盤の匂いが漂いますね。で、やっぱりこれ、内容も素晴らしいのです。ファーストと並ぶ名盤。うめ吉はバックがシンプルな方がいい。このアルバムのように、三味線だけ、三味線+ちんどん、他に加わってもピアノくらい、ってのがちょうどいい。このシンプルなバックによって歌われる明治大正の唄の数々は、どこか端唄的。市丸に似た唱法で小粋にきめるうめ吉さんは本当にかっこいい。

中山晋平の新民謡/藤本二三吉、市丸、勝太郎、佐藤小夜子、三島一声

昭和3年~9年の音源。とにかく凄い!戦前民謡がこんなにも強烈だったとは、このアルバムを聴くまで全く知りませんでした。感覚としては端唄小唄などに通じる洒脱さを感じますが、三味線と鳴りものによるあまりにもコアなグルーヴ(笑)にはちょっと驚き。アメリカの戦前ブルースの持つ骨太な生命力にも全く引けを取らない!今となっては民謡など聴く人は一部のお年寄りだけといった状況のようですが、こんなに強烈なものを放っておくのはちょっともったいないのではないか。いや、何もそこまで大袈裟に言わんでもいいかもしれませんが、とにかく僕は驚いたわけです。さて、このアルバムは中山晋平の作曲した民謡ばかりで構成されたもの。中山晋平と言えば東京音頭ですが、どの曲も東京音頭に引けを取らないい曲ばかり。そこにきて藤本二三吉や市丸が唄うんだから悪かろうはずがない。中でも藤本二三吉の唄う「丸の内音頭」が凄い。三味線のリフがジョン・リー・フッカーやエルモア・ジェイムスのようにザックザックと爆進(なわけないか)。ファンクとレゲエを通過したような「リズム」にうるさい方々ならこの微妙な感じが分かってもらえるはず。それまで日本の民謡にずっと「?」だった僕は、ここに来てようやく合点がいくような、腑に落ちるような、そんな感覚になりました。

尺八ー琴古流本曲名曲集/山口五郎

普化宗尺八(虚無僧尺八)を芸術的に整えたものが琴古流。故に非常に聴き易くなっているわけですが、それでもこの面白さを味わうにはそれなりに沢山聴かなければならないかもしれません。このアルバムなんかはエンドレスで流しっぱなしにしていると全体像が見えてきて分かりやすいかも。風のような音楽。

寄席ばやし 植田久子社中

落語などの寄席のお囃子だけを集めたCD。古今亭志ん生の「一丁上り」などもこのCDにもちゃんとおさめられてます。三味線と太鼓と笛のお囃子ばかり31曲。なんだかすっかり寄席気分です。

藤本二三吉 全曲集(六)舞踊小唄編

藤本二三吉によって端唄に開眼した自分としては、やはりこの人の音源は全部聴いてみたいわけで、とりあえず全曲集の中でも一番変なものが入ってそうな6集目のCDを聴きたくなるってのが人情(?)。「ジャズ金比羅」なんてのが入ってます(笑)。単に金比羅船船をビッグバンドをバックに歌ったというだけで、ちっともジャズじゃない。!他は案外まとも(笑)で、小唄、端唄、長唄などのいろんな要素を散りばめたような曲ばかりでどれも素晴らしく、戦前の日本音楽の質の高さを実感できます。

神田福丸/端唄の魅力

バックの鳴物などを含めて素晴らしいアルバム(最初の2曲にはバックにコロンビア・オーケストラもついているけど、これは無い方が確実に良かった)。寄席囃子っぽいバックの演奏はかなりツボ。神田福丸さんの唄声もさらりとしていてコクがある、実に魅力的な声。かなりハマりました。

杵屋五三郎/元禄花見

新年が明けてもう10日、そろそろ正月気分も失せて来るはずなのに、このCDのおかげでますます正月気分は盛り上がるばかり。「吾輩は猫である」に正月野郎という言葉が出てくるが、まさにそんな感じで頭の中がおめでたい。人間国宝の杵屋五三郎による見事な三味線演奏。太鼓や鳴り物も入ってます。全編インストです。日本の伝統音楽はこんなにも洗練されているんだってことを再確認させてくれます。

決定盤 高橋竹山/高橋竹山

近年の津軽三味線は単に「パワー&スピード」だけというイメージがありますが、高橋竹山の演奏はそういった俗っぽさからは無縁。どっしりとして、しかも軽やかで、かつ深みがあって。あまりにも微妙な間合いの取り方は絶品としか言いようが無い。津軽以外の曲目とかも、本当に素晴らしい。

説経節/初代若松若太夫

明治末期~昭和5年までの音源が収められている。三味線の弾き語り。これは本当に面白い。独特の節まわしと洗練された三味線が不思議と心地よいので、何度もリピートして聴いてます。瞽女唄の祭文松坂などはこの説経節を踏襲したもの。説経節には薩摩派と若松派とがあるそうで、このアルバムは若松派の初代若松若太夫のSP盤をCD化したものです。何故だか普通にBGMとして聴けちゃいます。

幻の庶民芸/豊年斎梅坊主(大道楽レコード)

明治時代のSP盤をまとめてCD化したもの。音曲もの、掛け合い軽口、阿呆陀羅経という3種類のレパートリーから厳選されて収録されている。どれも凄いが特に面白いのが音曲もの。かっぽれを始めとした曲の数々のノリの良さとパワフルさ。とにかく圧倒されます。最大傑作と言われる阿呆陀羅経「出鱈目」の出鱈目ラップには驚きます(笑)。ラストに1曲だけ二代目のかっぽれが入ってますが、初代の土臭くパワフルでノリを重視したようなスタイルとは反対に、形式を整え洗練されたお座敷芸スタイルになってます。初代の生々しいスタイルは初代だけで終わってしまったようです。まあ、こんな物凄いものをそのまま継承するのはちょっと無理かと…(笑)。


説経節 / 初代 若松若太夫(大道楽レコード)

中村とうよう氏が日本の伝統音楽にハマったきっかけはこの初代若松若太夫のSP盤だったそうだ。1960年代に偶然買ったらしい。そのいきさつがこのCDのライナーに書いてあった。このライナーには若松若太夫のSP盤のディスコグラフィーなども載っていて、とても充実している。初代若松若太夫のCDは現在売っているものを前にここで紹介したけど、こちらのCDの方はもうとっくに廃盤。しかしながら探す価値は十分にあり!です。話の内容を追わずとも、ただ普通に流しているだけでもなんだか心地よいです。若松若太夫の安定した三味線、心地よいゆらぎさえをも感じさせるヴォーカル。大正時代~昭和初期の文化の力強さを感じます。 

古今亭志ん生~山藤章二のラクゴニメ3「妾馬/たがや/饅頭こわい/稽古屋」

DVDです。志ん生がアニメになって動いている(笑)。大好きな「妾馬」が動く志ん生で見れるのが何よりもうれしい。音声はもちろん志ん生のもので、その音声に合わせてアニメーションをつけたもの。とにかくよくこんなもの作ったなあと感心してしまうんだけど、志ん生の落語にはそうしないではいられない程の魅力があるってことでしょう。「稽古屋」では歌う志ん生に合わせてアニメーションをつけるという離れ業。すごいです…。現在志ん生の落語の映像っていうのは3つくらい(?)しか残ってないそうなので、こういうアニメーション志ん生もまたいいかもしれません。 

禅・只管打坐 ~曹洞宗大本山永平寺にて録音

曹洞宗の総本山、永平寺での修行風景。昭和45年に永平寺で録音された音源で、CD2枚組。1枚目の「永平寺の朝」での「振鈴」「暁天座禅」「塔袈裟の偈」が実に気持ちいいです。

永平寺~声明・只管打坐の世界


1997年11月21~23日、永平寺にて現地録音。前に紹介したCD2枚組の「禅~只管打坐」の方は1970年の永平寺の現地録音だったけど、こちらはそれから27年後の録音。750年もずっと同じ作法で修行やっているそうなので、クォリティ(笑)はどちらも一緒でしょう。こちらは声明・読経が中心になってます。虫の声なんかも聞こえて来て風流です。修行風景をそのまま録音したものとして貴重。木魚4つ打ちのお経が物凄い。

昭和を飾った名歌手たち(6)島の娘/小唄勝太郎

芸者歌手の小唄勝太郎の昭和7年から11年までの音源。戦前の芸者音楽は本当にいいです。俗曲、端唄、民謡、どれをとっても面白い。有名な「東京音頭」のオリジナルバージョンが入ってますが、これはもともと藤本二三吉の「丸の内音頭」の替え歌(CD「中山晋平の新民謡」で聴き比べることが出来ます)。今では「東京音頭」の方が本家みたいな感じになってます。たまには盆踊りで「丸の内音頭」を聴いてみたい気もする(笑)。小唄勝太郎の歌い方は、あまりに声を張り上げずにさりげない感じだけど、やはりお座敷芸をやってた芸者だからなのかな。市丸とかもそんな歌い方。現代の檜山うめ吉さんなんかはこの流れの上にあるものでしょう。


歌舞伎名舞台集(SP復刻)/七代目松本幸四郎、十五代目市村羽左衛門、他

歌舞伎の名演の中の名場面ばかりを集めたもの。SP盤からの復刻です。どこかで聞いたようなセリフなどがたくさん出てきます。セリフが唄のようになめらかに聞こえてくるのは流石。バックで流れる音楽がこれまた楽しい。 

寄席囃子/ひので会(三味線:橘つや、平川てる 笛:三笑亭可勇(現:可楽) 太鼓:三遊亭円弥 鉦:三遊亭生之助)

1968年録音の名盤2枚組LPの初CD化(CDは1枚組です)。全70曲入り。今まで聴いたことのあるお囃子のアルバムの中でもこれはベスト。真の名人芸。素晴らしすぎです。 

お鯉さん/お鯉~唄声は時代《とき》を超えて~

百歳の芸者、お鯉さんの百歳記念CD。端唄、小唄、長唄、民謡…と、芸者ならではの洗練された唄い方で、すっかりハマりました。ブルースなどで70すぎのおじいさんの凄い歌声ってのはあったりするけれど、100歳ってのは相当珍しいのはないか?しかも三味線の弾き語りだったりする(笑)。いくつか年代別に音源が区切られていて、若い頃(といっても50すぎ…)の音源もあります。でもそれらと現在の唄声とが何の違和感も無く一緒に入ってるところが本当に凄い…。民謡の第一人者、小沢千月先生が絶賛しているという阿波よしこの(阿波踊り)の絶妙なノリはさすが。現在でも普通にライブとかやってるようなので、一度は生で見てみたいところです。CDのライナーではお鯉さんの若かりし頃の美しい写真などもいくつか見る事が出来ます。 

澤田勝秋、木津茂理 (つるとかめ)/しゃっきとせ

日本民謡のもたつくリズムを洗練させるとこうなる。洗練といっても別に前ノリが後ノリになったりポリリズムになったりするわけではない(そりゃそうだ)。あくまで普通の前ノリの民謡なんだけど、よくあるような「つんのめる」感じでは無く、ごく自然にのれる感じ。ひとつのリズムパターンの中にいくつものリズムが隠されているところなんかは、ちょっとポリリズム的か。日本民謡をオシャレな形で出していくのにこの方法は結構いけるのではないか。沖縄民謡のように、オシャレな感じの日本民謡を聴きたいと思うのは僕だけではないだろう。このアルバムはもうちょっとでその域にいけそうな、そんな予感を感じさせます。実に素晴らしいアルバム。 



(文:信田照幸)


純邦楽その2


 

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