<FUSION/その2>
■■■渡辺貞夫■■■
渡辺貞夫/エリス(1988/electra)
ブラジルで録音された本作。85年の「マイシャ」からつづくナベサダ本人のプロデュース作なのですが、これ、かなりいいです。1968年の「サダオ・ミーツ・ブラジリアン・フレンズ」以来のブラジル録音です。パーカッションの音の感触のせいなのか、全体的にブラジル音楽特有の「音が湿っている感じ」がありまして、なんとも心地よい。
渡辺貞夫/グッド・タイム・フォー・ラブ(1986/electra)
渡辺貞夫(as)アール・チナ・スミス(g)アンセル・コリンズ(key)カールトン・サンタ・デイビス(ds)ジミー・クリフ(conga)他
A-1でなんとジャマイカのトップミュージシャン達を迎えてかなり本格的なレゲエ・フュージョンをやってます。ジミー・クリフがなんでコンガなのか…?その他の曲は相変わらずのナベサダ節。B-2はCMに使われてる曲なのでかなり有名です。しかしこのアルバムの本当にイイところはその他の曲の数々で、特にB-3、B-4なんて本当に気持ちいいです。この曲はメンバーが全員日本人です。
渡辺貞夫/オレンジ・エクスプレス(1981/SME)
南国的な雰囲気は77年の「カリフォルニア・シャワー」と一緒です。NY録音ながらこの明るさはどことなく西海岸的。出だしがまるでスパイロジャイラなんですが、流行に敏感なんでしょうか。これはグルージンのアイデアか…?というわけでついにジョージ・ベンソン(A-1)まで引っぱり出してきたナベサダ。マーカス・ミラーまでも参加してて豪華です。ナベサダいわく、このアルバムは「シンプルでハッピーでナチュラルなものを目指した」、ということですがこの言葉通りのアルバム。B面のアフリカ系の曲もナチュラルにフュージョンになってます。
渡辺貞夫/フロント・シート(1989/electra)
僕の選ぶナベサダのナンバーワンがこれ。このアルバムが発表された時期はなにやら微妙な時期なのです。一体どんな時期かっていうと、下に最初のナベサダ・フュージョン作品といわれる「マイ・ディア・ライフ」以降の全ディスコグラフィーを書いてみたので参照。
1977年「マイ・ディア・ライフ」…最初のフュージョン作品
1977年「バーズ・オブ・パラダイス」…ジャズ作品
1977年「オータム・ブロウ」…リトナー&ジェントルソウツを従えてのライブ盤
1978年「カリフォリニア・シャワー」…言うまでもない大ヒット盤
1979年「モーニング・アイランド」…NYに舞台を移し、グルージンとの関係も堅固なものに
1980年「ハウズ・エブリシング」…武道館でのライブ
1981年「オレンジ・エクスプレス」…グルージンとはこれでおわかれ?
1983年「フィル・アップ・ザ・ナイト」…ラルフ・マクドナルドがプロデユースに
1984年「ランデブー」…前作の延長上の作品
1985年「マイシャ」…初のナベサダ本人プロデュース作
1985年「パーカーズ・ムード」…ジャズ作品
1985年「TOKYO DATING」…ボサノバ作品
1986年「グッド・タイム・フォー・ラブ」…ジャマイカのミュージシャン達との共演(一曲)他
1987年「バーズ・オブ・パッセージ」…ナベサダ本人とジョージ・デュークのプロデュースが半分半分
1988年「エリス」…ブラジルに舞台を移す
1988年「メイド・イン・コラソン」…ボサノバ作品
1989年「フロント・シート」
1991年「スウィート・ディール」…フェランテ、ブキャナンのプロデュース
1992年「ア・ナイト・ウィズ・ストリングス」…ジャズ作品
1993年「アース・ステップス」…NYに戻ってきたナベサダ
1994年「イン・テンポ」…ブラジリアン・フュージョン
1994年「ア・ナイト・ウィズ・ストリングスVOL2」…ジャズ作品
1994年「ア・ナイト・ウィズ・ストリングスVOL3」…ジャズ作品
1997年「ゴー・ストレイト・アヘッド」…ジャズとフュージョンとの微妙なブレンド
1997年「黒い瞳」…未発表曲集
1998年「ヴィアジャンド」…ブラジリアン・フュージョン
1999年「リメンブランス」…ジャズ作品
2000年「SADAO2000」…いろんな要素がごちゃまぜのアルバム
2001年「MINHA SAUDADE」…ブラジル音楽作品
大雑把に言うと、デイブ・グルーシン~ラルフ・マクドナルド~セルフ・プロデュース~ブラジルときたナベサダ音楽が、西海岸のジョージ・デューク/ラッセル・フェランテへと移行してきた途上のもの。このアルバムではジョージ・デューク(2曲)、ラッセル・フェランテ(3曲)、ロビー・ブキャナン(5曲)という3人のプロデューサーが名を列ねています。しかしバラバラになることなく統一したイメージでアルバムが仕上がっているところなんかはさすがナベサダという感じ。前作までのブラジリアンな感触もやや残っています。
アルバム全体の音の感触は悪しき80年代フュージョンを少し引きずっているかもしれないしジャケットのセンスなんぞは最悪かもしれませんが、ここでのナベサダのゆったりとして温かみのあるプレイ、そしてメロディアスな曲の数々、そしてなによりもこのアルバムの風通しのよさ…。このアルバムを聴いてると本当に気分良くなります。ナベサダのいつもの笑顔のような、そんな作品。
渡辺貞夫/フィル・アップ・ザ・ナイト(1983/electra)
渡辺貞夫(as)スティーヴ・ガッド(ds)マーカス・ミラー(b)リチャード・ティー(key)ラルフ・マクドナルド(per)エリック・ゲイル(g)ポール・グリフィン(syn)ホルヘ・ダルト(p)グラディ・テイト(ds)
次作品「ランデブー」ほどではないにしろ、やはりこのメンバーってことで「ワインライト」(グローヴァー・ワシントンJr)を彷佛させてくれます。とは言え、そこはナベサダ。もうこのメンバーだっていうのに完全にナベサダの世界を作り上げてます。ポール・グリフィンのシンセがちょっと邪魔だけど、でもいつものナベサダ音楽なので安心。前作「オレンジ・エクスプレス」まではグルージンのプロデュースだったけど、ここからはラルフ・マクドナルド。あの「ワインライト」旋風はやはり大きかったのでしょう。ちなみにナベサダが自身のフュージョン・アルバムにヴォーカル曲を入れたのはこれが初めて。
渡辺貞夫/ランデブー(1984/electra)
渡辺貞夫(as)ラルフ・マクドナルド(per)マーカス・ミラー(b)スティーヴ・ガッド(ds)エリック・ゲイル(g)リチャード・ティー(keys)ロバータ・フラッグ(vo)
メンバーが凄い。前作同様に全員グローヴァー・ワシントンJr『ワインライト』(80年)のメンバー。というか、この当事のニューヨークのフュージョン界のスター達ばかり。そんで、プロデュースが『ワインライト』同様ラルフ・マクドナルド。これで悪かろうはずがない。B面のラストから2つ目の曲なんぞはあの「ジャスト・ザ・トゥ・オブ・アス」(邦題:「クリスタルな恋人達」)そっくり。ヴォーカルこそ無いけど、バックはそのまんまって感じの作り。たしか「ジャスト~」も『ワインライト』のB面のラストから2つ目に入ってました…。そんでもってやっぱラルフ・マクドナルドがたくさん曲を提供してまして、このアルバムの8曲中ナベサダさんが作った曲はわずか3曲。このアルバムのコンセプトは『ワインライト』なのか?いや、別にそれならそれでかまわないのです。僕はこっちの方が好きなんだから。なぜならば、ナベサダさんの作った曲が全部素晴らしいから。願わくば全部ナベサダさんの曲で占めて欲しかった。とはいえこのアルバム、『フロント・シート』(1989年)同様に僕の愛聴盤。リチャード・ティーのローズがいかにもNY録音っていう感じでいい雰囲気だしてます。ジャケもナベサダ・レコの中ではすば抜けていいです。
渡辺貞夫/Go Straight Ahead And Make A Left (verve/1997)
渡辺貞夫(as,ss)バーナード・ライト(p, key)STEFHEN TEELE(b)MIKE FLYTHE(ds)他
スタジオ録音ながら全部ライブレコーディングのいわゆる一発録り。ストレートなジャズとフュージョンのちょうど中間っぽい仕上がりで、これがまたぜんぜん飽きない。何度聴いても面白い。ナベサダ・フュージョン独特のハートウォーミングさも味わえるし、ジャズ特有のスリリングなやりとりも味わえる。非常に密度が濃く、充実したアルバムです。5月のさわやかな季節、僕は何故か毎年ナベサダのフュージョン・アルバムが聴きたくなります。
■■■イエロージャケッツ■■■
YELLOWJACKETS/Four Corners(1987/MCA)
このアルバムからいきなりアコースティック路線を始めたイエロージャケッツ。ここからのイエジャケはかなり好き。というかこのアルバムがなかったら僕はイエジャケなんて聞いてなかったかもしれない。なんでこれほどまでにこのアルバムを気に入っているのかといえば、たぶんA-1のフォービートの曲があるからで、僕はやっぱフォービートが好きみたいです。この曲はほんとにかっこよくて、このアルバムはもうこれだけでオッケーみたいなところもあります。全体的にやや安っぽい音のシンセがかぶってたりしますが、それほど気になりません。この時代、イエロージャケッツのメンバーはスタジオミュージシャンとしても引っ張りだこでした。
YELLOWJACKETS/POLITICS(1988/MCA)
サックスはマーク・ルッソ。冒頭いきなりかっこよく始まります。つくづくウィリアム・ケネディのドラムはセンスよし。前作の「フォーコーナーズ」からアコースティックっぽい作りになったイエロージャケッツですが、このアルバムでのアコースティック度も結構高くて好きなアルバムです。しかしながら現在の視点から聞くとA面ラストやB面頭あたりのラッセル・フェランテのシンセの使い方が初期のポップなイエロージャケッツの名残りをみせており、興味深くもあります。僕はこのアルバムのA面2曲目が大好きで、A面ばかり聴いてたりします…。このジャケット、イエロージャケッツの中でも最高に気に入っておりす。
YELLOWJACKETS/Greenhouse(1991/GRP)
ボブ・ミンツァーがゲストという形で参加しています。それまでのマーク・ルッソがかなりポップなR&B風スタイルだったのに対しミンツァーの方はモード主体のかなりジャズ寄りスタイル。これがイエロージャケッツの音楽に与えた変化は大きい。ラッセル・フェランテのピアノスタイルもこの頃からやや変化してきまして、まるでキース・ジャレットがスタンダーズで演奏するときのように、深く追求するような演奏になってきています。
YELLOWJACKETS/Run For Your Life (1994/GRP)
曲ごとに表情の変わっていく過渡期のアルバム。1曲目ではかつてのLAポップの片鱗を見せ、ロベン・フォード参加の2曲目では典型的なホワイトブルースを演じ、ボブ・ミンツァー作の3曲目ではアップテンポのフォービート、って具合。フェランテとミンツァーの曲が半分半分って感じで並んでいて、ミンツァーの気の使い様が伝わってきます。このアルバムは個々のソロパーツを結構とってある曲もあるのですが、なにせフェランテもミンツァーも個性的というよりはひたすらウマい!というタイプのプレイヤーなので、長いソロは僕にはちょっとキツイ。しかしながらこのジャズ路線がのちにピターっとハマってきます。
YELLOWJACKETS / Dreamland (1995/warner)
ラッセル・フェランテ(key)ジミー・ヘイスリップ(b)ウィリアム・ケネディ(ds)ボブ・ミンツァー(sax)
このアルバムは最高。イエロージャケッツのアルバムを全部好きというわけでは無いし、むしろ好きなアルバムは限られているんですが、これはホントに気持ちよくてかなり気に入っています。僕にしては珍しく頻繁に聴くアルバムです。ところで、イエロージャケッツといえば必ずといっていいほど「ボブ・ミンツァー参加以降はうんぬん~」ということが言われますが、僕は別にマーク・ルッソだっていいわけです。いや、ボブ・ミンツァーに興味がないというんじゃなくて、イエロージャケッツに関しては完全にラッセル・フェランテのグループです。フェランテがコントロールしてるからこそこの独特の世界観が出せるわけで、各種サックスを吹きわけるボブ・ミンツァーが参加したことにより色合いが増えてより面白くなった、とかいうことではないのでは。ある意味フェランテがミンツァーを使いこなしてるという気がするんですがどうでしょう。
YELLOWJACKETS/Club Nocturne(1998/warner)
「ドリームランド」と同じくらい気にいってる作品。ウィリアム・ケネディのヴァラエティに富んだドラムが光ります。LAのポップなフュージョンバンドだったイエロージャケッツに、NYを拠点に活動していたボブ・ミンツァーが入ったのは91年になってから。そしてそこらへんからLAよりもNYを感じさせるバンドに変化をとげていたのでした。このアルバムになるともうすっかりNY的(しかしレコーディングはハリウッド、ミックスはLA、サンタモニカ)。
YELLOWJACKETS/Blue Hats (1997/warner)
ラッセル・フェランテ(p)ジミー・ハスリップ(b)ボブ・ミンツァー(ts,b-cl)ウィリアム・ケネディ(ds)
このアルバムあたりにくるともう「フュージョン」というよりもすっかりジャズ。98年のボブ・ミンツァーの名作「Quality Time」にも似た爽快感いっぱいのジャズです。このアルバムでの注目はドラムのウィリアム・ケネディ。とにかく素晴らしい。僕は「フォー・コーナーズ」以降のイエロージャケッツが好きなんですが、この「フォー・コーナーズ」からウィリアム・ケネディが入りました。この人の繊細でありながらさりげなく複雑なリズムを織りまぜるやり方は、たとえば本作1曲目なんか典型的。変則リズムじゃないのにずいぶん不思議なリズム。非常に細かいシンバル・ワークも見逃せません。
YELLOWJACKETS/Time Squared(2003/HEADS UP)
ラッセル・フェランテ(p,key)ボブ・ミンツァー(ts,s,b-cl,flute,EWI)ジミー・ハスリップ(b)マーカス・ベイラー(ds)
新生イエロージャケッツです。ドラムのウィリアム・ケネディが抜けピーター・アースキンが加入(1枚だけブート盤アルバムが出てます)、しかしすぐにアースキンも消えて今度はマーカス・ベイラーがドラムに。このドラマーもウィリアム・ケネディ同様しなやかでスケールの大きいリズムを聞かせてくれます。完全にジャズグループになってるイエロージャケッツです。
(文:信田照幸)