Cecil Taylor 50's セシル・テイラー 1950年代


(1950年代1960年代1970年代1980年代1990年代2000年代~)


1956.9.14.
CECIL TAYLOR /Jazz Advance (Transition/1955)

Cecil Taylor(p) Buell Neidlinger(b) Steve Lacy(ss) Denis Charles(ds)

セシル・テイラーのインタビュー記事によれば、セシル・テイラーは1955年にジョニー・ホッジスのグループに1週間ほどいたという。そこでエリントン式の音の置き方を学んだというわけでも無いだろうが(元々エリントンのファンだったそうだし)、ホッジスのグループに居たという経歴はこのセシル・テイラーのデビュー作を録音する上でも重要だったのではないかという気がします。もちろんエリントニアン達のアルバムに見られるような独特の艶かさなどはこのアルバムでは皆無だし、ホーンのレイシーもホッジスらの吹き方とは対照的な端整で直線的なものだけど、セシル・テイラーのピアノのアクセントの置き方などはまさにエリントン的(同時にモンク的でもある)。この特徴のあるアクセントが、まさにセシル・テイラーの出発点。これを極端に強調していく中で60年~61年のCANDID時代の大きな変化があり、63年の「モンマルトル」へと至る。バップというにはあまりにたどたどしく聴こえますが、このタテに杭を打っていくような感触はその後ずっと持ち続けることになります。本作は50年代セシル・テイラーの中でも最も素晴らしく創造的な一枚。フレーズやタッチを手探り的に開発していく様や、テイラーならでは特徴もダイレクトに現れています。 

1956.9.14.
CECIL TAYLOR / Jazz Advance (transition/fresh sound/1956, 1957)

Cecil Taylor(p) Buell Neidlinger(b) Steve Lacy(ss) Denis Charles(ds)
1956年の「Jazz Advance」と1957年の「Newport Jazz Festival」をカップリングしたCD。「Newport Jazz Festival」の方は初CD化ではなかろうか。ジャケがオリジナルの「Jazz Advance」とは違っているけど、このジャケはなかなか素晴らしい。セシル・テイラーのアルバムのジャケはあまりいいものが無いので(BNの2枚とモンマルトルは例外的に素晴らしい)、このジャケが一般化してもいいかも、なんて思ってしまう。ただ、オリジナルの「Jazz Advance」のジャケはなかなかいいのでこちらのCDの題名は「New Port Jazz Festival」にしてもよかったのでは。曲順も「Newport Jazz Festival」→「Jazz Advance」にして…。ちなみに、「Jazz Advance」は以前にも「Hard Driving Jazz」(Coltrane Time)のCD化の際に2 in 1 としてカップリングされてました。案外不遇なアルバムかもしれません。名盤が泣きます…。というわけでこのCD。最初期2枚をまとめて聴けるというわけですが、スタイル自体は56年も57年もほぼ同じ。初期のセシルは、ウィリー・ザ・ライオン・スミス~エリントン~モンク、の流れの上にあるスタイルではあるものの、のちのアブストラクトなスタイルもちらほら見えてます。ライブ音源のNewport Jazz Festivalの方はテンションが上がってテンポがどんどん早くなっていきます。


1957.7.06.
CECIL TAYLOR / At Newport '57 (verve/1957)

Cecil Taylor(p) Buell Neidlinger(b) Steve Lacy(ss) Denis Charles(ds)
カフェ・モンマルトル(62年)以降のセシル・テイラーの、あまりにも早い展開のピアノを十分に楽しむには、初期セシル・テイラーをそれなりに聴いておくと意外に聴き易くなるかもしれません。「Jazz Advance」(1956)、「At Newport '57」(1957)、「Looking Ahead ! 」(1958)、「Love For Sale」(1959)、「The World Of Cecil Taylor」(1960)、これらを順に聴いていくと、セシル・テイラーのピアノスタイルが何故ああなってしまったのか(笑)が分かります。で、このアルバム、「Jazz Advance」でデビューした翌年のニューポート・ジャズフェスティバルでの演奏です(A面のみ)。「Jazz Advance」同様スティーヴ・レイシーがサックス吹いてます。セシル・テイラー流ハードバップ。エリントンとモンクのスタイルをそのまま継承しつつ、自分なりの味付けをして独自のバップに仕上げています。冒頭、「スィースェル・テイロァー・クォーテット!」という紹介がなんとなくカッコイイ(笑)。

1958.6.09.
CECIL TAYLOR / Looking Ahead ! (contemporary/1958)

セシル・テイラー(p)アール・グリフィス(vib)デニス・チャールズ(ds)ブエル・ネイドリンガー(b)

天下のコンテンポラリー・レーベルからのアルバム。ちなみにこの数ヶ月前にはコンテンポラリー・レーベルでオーネット・コールマンのデビュー作「Something Else」が録音されてます。この西海岸のレーベルがよりによって同じ年にオーネットとセシル・テイラーの録音をしたというのは実に不思議なんですが、オーナーの先見の明といったところでしょうか。のちにフリージャズを先導するアーチストとなるオーネットとセシル・テイラーの最も初期に、ウェストコースト・ジャズの代表レーベルであったコンテンポラリー・レーベルがからんでいたというのは、意外な盲点かもしれません。そんなわけでこのアルバムですが、「Jazz Advance」(56年)、「At Newport 57」(57年)につぐ3枚目のアルバムです。意外にコンテンポラリー・レーベルらしいと言えば言えなくもないのが面白いところ。ラウンジ・ミュージックとしてもそれなりにいけるのではないか?セシル・テイラーの音楽にしては爽やかです。ところで、セシル・テイラーの音楽は62年あたりから急激に変化していって、例の渾然一体となったパターンになりますが、だからといって50年代の初期セシル・テイラー音楽が発展途上というわけではなく、あくまでこれが完成型。「進化」してああなったのでは無く、「変化」であると僕は捉えます。だからこそ、このアルバムは今聴いても十分に素晴らしいのであり、何度も聴きたくなるわけです。ちなみに、セシル・テイラーのグループの中にヴァイブが入るのは実は非常に珍しいこと。録音に残ってるものでは、他に88年FMPでのベルリン・ライブ・セッションの「Concrete」しかありません(データ上では72年3月、81年5月、86年11月、89年12月、98年11月、98年12月、2000年1月、2001年2月、にそれぞれヴァイブの入ったセッションをやっております)。

1958.10.13.
CECIL TAYLOR /HARD DRIVING JAZZ(united artists/1958)

セシル・テイラー(p)ジョン・コルトレーン(ts)ケニー・ドーハム(tp)ルイス・ヘイズ(ds)チャック・イスラエル(b)

ジョン・コルトレーン名義で「コルトレーン・タイム」としても出回っているものなので、ひょっとしてこのアルバムはセシル・テイラーの作品の中でも最もよく聴かれているものかもしれません。このメンバーの中に何故セシル・テイラーがいるのか不思議になってきますが、プレイ自体はモンクのスタイルを多少フリー寄りに押し進めたようなもの。現代の視点で聴くと特に違和感は感じません。コルトレーンがちょうどモードへ突入し激しく変化し始めた時代でのセシル・テイラーとの共演ということで、セシル・テイラー(当時25歳)がコルトレーン(当時32歳)に及ぼした影響というものが気になってくるところですが…。ちなみにこの前後のコルトレーンのスケジュールを追ってみると、1958年9月11日セロニアス・モンク・カルテットに参加(フィイヴ・スポットでのライブ)、9月12日ジョージ・ラッセルのアルバム「New York N.Y.」の録音、10月13日セシル・テイラー「ハード・ドライヴィング・ジャズ」の録音、11月1日マイルス・デイビス・クインテットへ戻ってライブ、ということになっております。あの「カインド・オブ・ブルー」の録音が59年3月2日から始まり、「ジャイアント・ステップス」の録音が59年4月1日から始まることを考えても、この頃のコルトレーンがいかに重要な時期かというのが分かります。そしてその時期にセシル・テイラーと共演していたというのは大きな意味があるのではないか、なんて思うのですが…。また、セシル・テイラーの側からこのアルバムに焦点を当ててみると、セシル・テイラーのアルバムにしては大変珍しい位の典型的ハードバップ、ということになるでしょう。「Jazz Advance」(56年)「At Newport 57」(57年)「Looking Ahead !」(58年)「Love For Sale 」(59年)と、それぞれ50年代作品はバップではあるものの、どこか変形したバップというニュアンスがありました。が、このアルバムはフロントの2人のおかげか、かなりストレートなハードバップ作品。テイラーはバックで当時としては相当変わったことをやってますが、それでもやっぱりストレートなハードバップです。テイラー・ファンとしては、こういう珍品が残っていて本当によかったなあ、などと思うのであります。

1959.4.15.
CECIL TAILOR / Love For Sale (united artists/1959)

セシル・テイラー(p)ビュエル・ネイドリンガー(b)デニス・チャールズ(ds)テッド・カーソン(tp)ビル・バロン(ts)

50年代~60年代初頭のセシル・テイラーを順に追っていくと、エリントン~モンクという路線上にありながら(もちろん現代音楽も下地にある)、そこからさらに外れて行く過程を楽しめます。このアルバムは50年代最後のもので、トリオ(A面)とクインテット(B面)の演奏が入ってます。トリオの方は3曲全部コール・ポーターの曲。セシル・テイラーがコール・ポーターをどう展開させるのかという楽しみの他に、ファーストの「JAZZ ADVANCE」同様セシル・テイラーのピアノトリオでのフォービートを楽しめるのが貴重。また、その他の曲はすべてセシル・テイラーの作曲ですが、単純なバップ的テーマだったりするのが興味深いところ。CDにはボーナストラックが入っていてこれもまたよし。


(文:信田照幸)


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