フリージャズ(その9)

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Ornette Coleman / Ornette! (Atlantic/1962)

Ornette Coleman(as) Don Cherry(tp) Scott LaFaro(tp) Ed Blackwell(ds)

アトランティック時代のオーネットの名作。オーネットの音楽の原始性がよく現れている作品。叙情性の全く無い冷徹な音が実に心地よい。前作「Free Jazz」で参加していたスコット・ラファロがそのまま入っていて、このベースがよく効いている。ドン・チェリーが吹いているのはポケット・トランペットで、オーネットのサックスの音色に益々近づいているのも面白い。一本調子にもみえるエド・ブラックウェルのドラムは聴けば聴くほど呪術的な怪しさを放つ。

The Music Improvisation Company (ECM/1970)

DEREK BAILEY(g) EVAN PARKER(ss) HUGH DAVIES(live electronics) JAMIE MUIR��(per)
CHRISTINE JEFFREY(voice)

ガサガサガサ、キュルキュルキュル、ゴソゴソゴソ、ブイ~~ン・・・、という音の中に何かがあるような、何もないような。感情表現としての音という固定観念を消すと、そこにニュートラルな音空間が姿を現す。同時代のアメリカのフリージャズの対極にある音楽。エヴァン・パーカーの四方八方に拡散する小さな音の塊の数々が凄い。

Jason Stein Quartet - Lucille! (Delmark/2017)

Jason Stein(b-c) Keefe Jackson(ts, contrabass-cl) Joshua Abrams(b) Tom Rainey(ds)

CLEAN FEED的なメンバーによるCLEAN FEEDっぽいアルバムなのだが、レーベルはDelmark。トリスターノやウォーン・マーシュの曲にジェイソン・ステインのスタンスを垣間見るようだ。ソロの組み立てもどこかウォーン・マーシュやコニッツのようなアブストラクト感がある。ちなみにキーフェ・ジャクソンも似たようなソロを取る。また、キーフェ・ジャクソンによるコントラバス・クラリネットは音そのものが面白い。トム・レイニーのパーカッシブなドラムは相変わらず細かくて心地よい。このやや地味目なドラムが全体のトーンを決めている。

William Parker / Lake of Light, Compositions for AquaSonics (Gotta Let It Out/2018)

William Parker, Jeff Schlanger, Anne Humanfeld, Leonid Galaganovv(AquaSonic)

ウィリアム・パーカーの最新作はアクアソニックというパーカッション(Waterphone)だけによる音楽。エクスペリメンタルっぽくもあり、アンビエントっぽくもあり、民族音楽っぽくもあり、何やら評価も分かれそうな音。音の感触が冷たいので真夏の暑い日には涼しくなってちょうどいい感じかも。日本人は風鈴の音色に涼しさを感じるけど、このアクアソニックの音色にも僕は似たような涼しさを感じます。まあ、あの暑苦しいウィリアム・パーカーからは想像できないかもしれないけど。

Don Pullen / Milano Strut (Black Saint/1978)

Don Pullen(p, org) Don Moye(ds,per)
ドン・プーレンとドン・モイエのデュオ。A面はドン・プーレンの例のビュンビュンという音が連発する壮絶な演奏に、木目細かなドン・モイエの音が絡みつくという、結構凄い演奏。ドン・モイエはどんなに叩いてもうるさくならず、音の豊かさを感じる。B面になると何故かいきなりアーバン(笑)なフュージョン曲が。ドン・プーレンのオルガンもオシャレな感じだし、ドン・モイエのゆったりとしたリズムもいいし、何より曲がいい。がしかしその後すぐにまた壮絶なピアノvs パーカッションへと早変わり。何故途中にフュージョンを混ぜたのか謎だけど、そこが面白いといえばそんな気もする。ドン・プーレンの二面性がよく分かる作品。しかし考えてみればドン・プーレンという人はミルフォード・グレイヴスとのフリーで出てきたものの、のちにはメロディの美しい曲も結構作ってるわけで、何かの拍子でボブ・ジェームスみたいになってた可能性だってあったのではなかろうか、なんてこともふと思った。ボブ・ジェームスもESPでアバンギャルドなアルバムを出してたわけで、あのボブ・ジェームスと70年代のポップなフュージョンの数々を出してたボブ・ジェームスが同一人物とはなかなか想像出来ないし。

Anthony Braxton ‎/ Nine Compositions (Hill) 2000 (CIMP/2000)

Anthony Braxton(as,ss) Steve Lehman(as) Paul Smoker(tp) Kevin O'Neil(g) Andy Eulau(b) Kevin Norton(ds)
アンドリュー・ヒルの曲ばかり集めたアンソニ・ブラクストンの2000年録音作品。フリーというよりもポストバップ的。どこかドルフィー的でもある。ドラムのケヴィン・ノートンはブラクストン・グループではお馴染みのメンバーで、clean feedにも録音がある。このドラムを中心としたリズムセクション(ギター、ベース、ドラム)は重々しさが全く無く軽やかな浮遊感が心地よい。アルバム最後にはアンドリュー・ヒルの「Point of Departure」(blue note/1965)の1曲目の「Refuge」をやっている。「Point of Departure」ではドルフィーの圧倒的なソロがあるけど(ジャズ史上に残るとんでもないソロだと思う)、それを踏まえた3人のソロも聴きもの。ちなみにブラクストンは3人目に出てきて、途中からは3人入り乱れ、とても面白い演奏になっている。正直言うと「Point of Departure」の足元にも及ばないと感じるが(ドルフィーやトニーがいるんだからまあしょうがないが)、あの新主流派の時代が異常だったのだ。で、2000年代にあの時代からの直接の繋がりを感じるアルバムを出すブラクストンは信用出来る。

Art Ensemble Of Chicago , Don Pullen / Fundamental Destiny (AECO/1991)

Lester Bowie(tp, per) Malachi Favors(b, per) Roscoe Mitchell(ss, as, ts, bs, cl, fl, per) Joseph Jarman (ss, as, ts, syn, cl, fl, per) Don Moye(ds, per) Don Pullen(p)
植物の生成や自然界の情景を思わせるようなアート・アンサンブルの音楽には独特な美しさがある。本作はドン・プーレンが加わったドイツでのライブ音源。ドン・プーレンとアート・アンサンブルが火花を散らす、なんてことは無く、ドン・プーレンがすっかり溶け込んでアート・アンサンブルの一部になってるのが面白い。ピアノもまた打楽器であるということを感じさせる。あと、アート・アンサンブルのアルバムはいつでもそうなのだが、とにかくパーカションが素晴らしい。

Don Cherry / Eternal Now (1974/sonet)

Don Cherry(tp, p, harmonium, vo, h'suan, daster, gong) Bengt Berger(p,Tibetan bells, Kalimba, mridangam, cymbal) Christer Bothen(p, dousso n'koni, Tibetan bells) Bernt Rosengren(tarogato) Agneta Ernstrom(Tibetan bells, dousso kynia)
何やらアジアのどこかの密林に住む少数民族の音楽と言えば言えなくもないようなエスニックな音。このアルバムではドン・チェリーの自我のようなものは消えて大自然そのものとなり、ドン・チェリーを媒介として大自然の音が鳴っているかのよう。もはや個性の生まれる以前の大きな源を思わせる。ジャズとは個性の音楽だが、そういう意味ではこれはジャズの対極にあるかもしれない。この音楽からドン・チェリーの生き方や思想が少しだけ垣間見える気がする。

Wilber Morris, David Murray, Dennis Charles / Wilber Force (1988/DIW)

Wilber Morris(b) David Murray(ts) Dennis Charles(ds)
80年代後半から90年代半ばあたりのDIWレーベルはものすごい盛り上がってて、僕なんかはディスクユニオンに入り浸って夢中でそれらを追いかけていたものだけど、このCDもそんな中の1枚。もともとは84年にLP2枚組で出たものだけど80年代後半にCD化された。1983年2月6日の雪の日の午後にニューヨークのKwameでライブ録音されたもの。のちにDIWの主力となるデヴィッド・マレイはいつものような吹きすぎ感がなく、とてもバランスがいい。

Lounge Lizards / Big Heart Live In Tokyo (Non-Standard / 1986)

John Lurie(as) Evan Lurie(p) Marc Ribot(g) Roy Nathanson(ts,as,ss) Curtis Fowlkes(tb) Erik Sanko(b) Douglas Bowne(ds) 

1986年の東京でのライブ。ラウンジリザーズの中でも最も有名な曲「Big Heart」が入ってることからファーストアルバムとともによく知られるアルバムだと思うけど、日本盤とUS盤とでは曲目が微妙に違うしジャケも違う。こちらは日本盤の方。ギターがアート・リンゼイからマーク・リボーに変わっているけど、このギターの変化がラウンジリザーズの音楽性の変化をよく表しているように思う。ノーチューニングでひたすら制御不能なノイズを奏でたアート・リンゼイから自由自在にギターを操るマーク・リボーへと変わったことでより”音楽”的にはなったが、かつてのパンク的なトンガリ感が無くなった。NYノーウェイブのファッション性を残しつつもフリージャズとして昇華し音楽性を完成させたのがこのアルバムと次作の「No Pain For Cakes」。

Paul Bley / Zen Palace (Transheart/1993)

Paul Bley(p) Steve Swallow(b) Paul Motian(p) 
ポール・ブレイのアルバムの中でも上位に数えられるほど中身の濃い充実したアルバム。邦題は「禅パレスの思い出」となってるが(5曲目の曲名と同じ)、このアルバムから禅パレスはなかなか思い浮かばなかったというか(笑)、そもそも日本的印象も皆無で、そこがイイ。スティーブ・スワロウのフットワークの軽いベースも本当に素晴らしくて聴き惚れる。

Andrew Cyrille / The News (ECM/2021)
Andrew Cyrille(da) Bill Frisell(g), Ben Street(b), David Virelles(p, syn)

シンバル中心の静かなドラムなのに、あのセシル・テイラー・ユニットの「アキサキラ」での壮絶なドラムとほとんと同じ印象なのが面白い。それほど個性的なドラムなのだ。どんなにシンプルに演奏しても、やっぱりあの独特のリズム感になる。ちなみにこれはECMからの3枚目。やっぱりビル・フリゼール色が強い。シンバルの音が本当に綺麗なのだが、ECMだからなのか、はたまたアンドリュー・シリルの技が洗練されたものなのか。

Alvin Fiedler / A Measure of Vision (2007/clean feed)

Alvin Fielder (ds, per) Chris Parker (p) Dennis Gonzalez(tp) Aaron Gonzalez (b) Stefan Gonzalez (ds, vib)
アルヴィン・フィールダーはロスコー・ミッチェルの「Sound」とか、Sun Raに参加してたドラマー。本作はそのアルヴィン・フィールダーのclean feedからの作品。この時期のclean feedはいいアルバムが多くて、これもまたclean feedらしい爽快なアルバム。とにかくアルヴィン・フィールダーのパーカッシヴでよくスウィングするドラムが最高。心地良いという言い方がピッタリ。clean feedではお馴染みのトランペッター、デニス・ゴンザレスも大活躍。

David Murray / Seriana Promethea (Intakt Records/2022)

David Murray (ts,b-cl) Brad Jones(b) Hamid Drake(ds)
ペーター・ブロッツマンを聴くときにはちょっと気合を入れないと全然入って来ないけど、デヴィッド・マレイは気楽に聴けてすんなりと耳に入って来る。何もブロッツマンが堅物で聴きづらいとか言いたいわけではなく、デヴィッド・マレイが親しみやすくて身近な存在だったからだ。1980年代末から90年代にかけて、新宿のディスクユニオン(初期は本館のジャズフロア、その後は新宿ジャズ館)に頻繁に通っていたのだが、とにかくここのユニオンがずっとデヴィッド・マレイ推しだったのだ。もちろんディスクユニンのDIWレーベルから鬼のように沢山アルバムを出してた関係でマレイ推しだったのだろうが、たしか仕舞には新宿ジャズ館でライブまでやったと記憶している(ハミエット・ブルーイットもいたような)。なわけで、僕なんぞはDIWから出てるマレイ盤はほとんど買い(定期的に中古で安売り放出してたし)、ついでにBlack Saintその他の盤まで手を出したが、結局売ったり買ったっりを繰り返して最後に手元に残ったのは数枚だけ。で、僕はデヴィッド・マレイはそんなに好きではないと思ってたのだが、この新作を聴いて少し考えを改めた。やはりマレイ好きだったかもしれん。このアルバム、特にアクロバティックなフリーを披露してるわけでもなく、尖ってるわけでもない、なんともさりげない演奏ばかりなのだが、これがとてもいい。サックス・トリオという編成だからというのもあるけど、とりあえずサックスの音を浴びたいという欲求を満足させてくれる。ストレートにそして自然体で朗々と吹いていくマレイは、気負いや力みみたいなものが無くなった分だけ音に説得力を感じる。やはり力んだフリークトーンなぞいらないのだ。サックスだけでなく、ベースもドラムも素晴らしい。聴きなれたマレイだけど、改めていいなあと思えるアルバムだった。スライの「イフ・ユー・ウォント・ミー・ステイ」のイントロのベースが出てきたときはなんか嬉しくなった。

Barre Phillips / Face A Face (ECM 2022)

Barre Phillips (b) Gyorgy Kurtag jr. (live electronics)
たしかバール・フィリップスは前作の「End To End」(ECM 2018年)が自身のラスト作みたいなことを言ってたような気がするけど、結局新作が出た。バール・フィリップスとジェルジュ・クルターグ・ジュニアのデュオ。感触的には1992年の「Aquarian Rain」(ECM)にも通じるものがあるけど、こちらの方がより硬派というか、非-音楽とでも言いたくなるような現代音楽臭が強い。この深海に静かに響くような音のひとつひとつから鉄のような硬さと重さを感じる。このただただ冷たい音空間はマンフレッド・アイヒャーの思想でもある。

David S. Ware / Organica (AUM Fidelity 2010)

David S. Ware (ss, ts)
デヴィッド・S・ウェアのサックスソロ。晩年の2010年にブルックリンとシカゴで録音された。ウェアの音は独特のゆらぎがあって魅力的。アイラーの奏法をダイレクトに受け継ぐサックスだ。サックスのソロでのフリー・インプロヴィゼーションというのはアーチストの体質がそのまま伝わって来るようで面白い。

Anthony Braxton & Derek Bailey / Royal Vol.1&2 (Honest Jon's Records 1974)

Derek Bailey(g) Anthony Braxton(ss, as, cl, contrabass-cl)
アンソニー・ブラクストンとデレク・ベイリーのデュオ。名演。アンソニー・ブラクストンが楽器をつぎつぎに変えていくので、まるでデレク・ベイリーのギターが地で、ブラクストンが図であるかのよう。すべて抽象的フレーズで統一されていながら、一定のグルーヴ感やスウィング感というものが確実にある。この二人は他に「FIRST DUO CONCERT LONDON 1974」(EMANEM)という日本盤CD化されたアルバムや「MOMENT PRECIEUX」(VICTO 1986)というアルバムなどもある。

Ivo Perelman, Elliott Sharp / Artificial Intelligence (Mahakala Music 2023)

Ivo Perelman(ts) Elliott Sharp(g, electronics)
イーヴォ・ペレルマンとエリオット・シャープのデュオ。地味なつぶやきのようなエリオット・シャープのギターと、散文的なフレーズを散りばめるイーヴォ・ペレルマンのテナー。ときおりエレクトロニクスがミニマル音楽的に聴こえてくるのもいい感じです。全般的にさらさらと流れていく涼しさがあります。熱気はないのに生命力がある感じ。

Charles Gayle / Live at Glenn Miller Cafe (Ayler Records / 2006)

Charles Gayle(as) Gerald Benson(b) Michael Wimberly(ds)
先日亡くなったチャールズ・ゲイルの2006年スウェーデンでのライブ。デヴィッド・S・ウェア亡き後、このスタイルの最後の砦だと思っていたチャールズ・ゲイルが亡くなってしまい残念だが、何気にアルバムは沢山残っている。これからどんどん発掘していくことにしよう。ゲイルは20年に及ぶニューヨークでのホームレス生活の中、ずっとストリートや地下鉄構内でサックスを吹いていたというが、そこで作り上げたサックスの音の存在感はなかなか凄い。ゲイルの音はニューヨークのストリートの音そのもののようだ。というわけでこのライブ盤。最初のチェロキーからいきなりスウィンギーで心地良いです。ゲイル独特のサックスの音色でガンガン吹いてくれる。フリージャズなのにチェロキー、朝日のように爽やかに、ジャイアントステップス、ホワッツ・ニュー、とスタンダードが続くのが面白い。ラストはアイラーのゴーストで締める。

Alexander von Schlippenbach / Piano Solo '77 (FMP/1977)

Alexander von Schlippenbach(p)
アレキサンダー・フォン・シュリッペンバッハのピアノソロ。ポリーニがピアノを弾く前に指慣らしでもやっているかのように、アカデミックな技術がちらつく所が多少気になるが、これも個性ということなのだろう。ものすごい勢いで飛ばす冒頭の演奏が圧巻。

Don Cherry / Nu Live at the Bracknell Jazz Festival, 1986 (BBC Worldwide/1986)

Don Cherry(tp, doussn gouni, p, vo) Carlos Ward(as, fl) Nana Vasconcelos(per) Mark Helias(b) Ed Blackwell(ds)
このグループにはNuという名前がついていて、公式ではもう1枚ライブ盤が出ている(「Live in Glasgow」1987年)。当時日本にもツアーで来たことがあって、それを見に行った方の話によるとかなり凄いライブだったとか。で、このライブ盤、まずはナナ・ヴァスコンセロスのパーカッションが素晴らしい。「Organic Music Society」(1972)や「Multikulti」(1990)などの他のドン・チェリーの有名アルバムにも頻繁に参加してるけど、ドン・チェリーのナチュラルな音に合ってます。長年連れ添っているエド・ブラックウェルは「Mu」(1969-70)そのままに、とにかく細かいドラム。豊富なパターンでリズムを繰り出す様は爽快。ドン・チェリーのライブ・アルバムの面白さは、常に現在進行形のドキュメント性を感じさせるところ。雲の形のようにどんどん変わり続ける。

 


(文:信田照幸)


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